株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2022.07.08

私たちの消費と平和な生活と、福島の桃

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拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

東日本大震災と原発事故以来、行こう行こうと思っていた、福島浜通りに行ってきました。
今さらかよ!の批判は免れませんけれども。

そんな旅で、ようやく帰還が可能になって新たなまちづくりが始まっている双葉町で、こんな言葉を見つけて絶句しました。
『0から始まるってすごいこと!
0から1、さらに広がる未来が楽しみ。』
((一社)双葉郡地域観光研究協会の山根辰洋さん)

なんてポジティブな。
“まちづくらー”を自認する私ですが、自分の街がこんな風に再スタートを余儀なくされたときに、こんな言葉を吐けるだろうか。そう思うとため息が出てきます。

ところで、今回はエシカル消費について、です。

エシカル消費とは、私が学生時代くらいから広まり始めた言葉で、直訳すると「倫理的な消費」、です。
最近はSDGsという概念が広まっていますが、たとえば、SDGsに基づいた行動をしている企業の商品を買うことはエシカル消費の典型例と言えるでしょう。

地元を盛り上げる!という目的で、地産地消の商品を買っていただくとすれば、それもまたエシカル消費ですね。

お金を使うという行動は、経済的なこと以外の意味も持ってくるので、そういう「お金を使ったその先」まで想像することは大事だと私は思います。
エシカル消費とは、「想像力の消費」だと言えるでしょう。

ただ、まあ、エシカルに消費をするというのは、簡単なことではありません。
最近の分かりやすい例だと、太陽光パネルを買うことは温暖化対策として「倫理的なこと」のはずですが、人権を軽視した国や企業を富ませることになるという批判が近年出てきています。
実際のところ何が正しいのか私には分かりませんが、エシカル消費ってちゃんとやろうとすると、結構難しい。

しかし、それでもなお、お金を使ったその先を想像することは大事です。私たちはお金で社会と対話していると言っても過言ではない。

で、そうしたときに私が提案したいのは、「消極的エシカル消費」です。
それは「お金を使うはずだったのに使わなかった」を止めることです。

私たちは、日々の平和な生活を大事だと思っています。であれば、お金を使う先にも存在している誰かの平和な生活、これも大事にしたい。
環境によい商品やフェアトレード商品を買うことも大事ですが、まずは正当な理由なく、普段の消費行動を止めないことが想像力をきちんと使った消費ということになります
それがエシカルな行動のキホンのキ。

私はこのコロナ禍、外食回数を減らさなかったという自信があります
大パーティをぜずに少人数で騒がずに飲みに行けば、感染リスクは相当に小さいですからね。

そして、農産物でいえば、福島産の農産物の話。
これを風評被害から救うということは、何よりのエシカル消費でしょう。

福島の桃は、震災前は全国平均よりも価格が高かったのですが、現在でも2割ほど全国平均より安い状況がつづいています。

エシカル消費的な考え方では、「みんなで福島産を買って支えよう」ということになるのですが、本来、そのような積極的でカッコイイことをする必要はないのです。「あえて福島産を買わない」ということをみんながしなければいいだけのことなのです。

福島県のお米などは全袋検査を行ってきました。
全袋、ですよ!それがどんなに手間なことか農業関係者なら分かります。
なんとなれば、他の県のどんな農産物よりも安全であることが証明されているわけです。
なのに、価格が低い。
それは、買わないようにした人たちがいたからです。

先日、また福島を地震が襲いました。今回の旅で宿泊した相馬市内の旅館は、ロビーの壁が崩れてそのままでした。なかなか業者さんを手配できないらしいです。

名所のひとつである相馬神社では灯篭があちこちで倒れ、そのまま放置されている状況でした。
でも、旅先を変えようとは思わなかったです。変えることで起きることが想像できるから。

もちろん、福島の魚介類もたくさん食べてきましたよ!
買い支えてあげようというような偉い精神でも同情でもないのです。ただ美味しいものは食べたいし、あえて避ける理由はない。それだけのことです。(写真は相馬市「浜の駅 松川浦」)

積極的なほうのエシカル消費はどうしてもファッションのような側面を持ちます。
それはそれで必要なことでしょう。

ただ、私たちがまず最初に考えるべきことは、消極的エシカル消費。すなわち、「正当な理由もないのに、普段の消費生活を変えてしまわないようにすること」ではないでしょうか。
消極的ではありますが、それだけにカンタンです。

変えることで誰かの平和が脅かされることはないだろうか?
そういう想像力を持つ。

つまり、エシカル消費の第一歩とは、かっこいいいことでもなんでもなく、ただ普段通りを止めないことなのです。
まずはそこから。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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