社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
価格、値段、値打ち。
商売を悩ませるもののひとつです。
先日、とある自治体の会議で職員のAさんが多くの農家さんを前にこう言っていました。
「みなさん、もっと高い値段を付けましょうよ!」
地元のものは新鮮でおいしい。だから、自信をもって高い価格を付けて大丈夫だ。
インフレで、肥料も燃料も上がっているところ、ちゃんとコストを吸収しよう。
そう言うのです。
そんな熱い職員さんがいるなんて、その自治体は本当に羨ましいですね!
直売所は委託式であることが多く、つまり農家さん自身が価格を決められます。
その自由さは良いことですが、安い価格を付ける農家さんがいることで地元野菜全体のブランド価値が下がってしまうということも起こります。
(詳しくは拙連載をご参照ください。『直売所プロフェッショナル:第3回「こんなにあった! 直売所に不毛な安売りがはびこる7つの理由」』)
その会議の帰りがけ、とある農家さんは「そうはいっても品質が高くないとね」と言って去っていきました……。
そんなこともありつつ、最近、価格に関するエピソードにいくつか遭遇したので、オムニバス的にご紹介していきたいと思います。
●超高糖度の「さわとまと」を作る府中の澤井さん。全国ミニトマト選手権で最高金賞受賞しました(おめでとうございます!)。
過去の受賞者のなかには、そのトマトを1キロ4万円とかで売る生産者もいるそうです。うひゃあ。(澤井さんのことではないです。)
●国分寺にもお茶畑があり、そしてお茶を製造しています。恋ヶ窪の松本製茶さん。職人技が生み出す美味にファンが多い。
いわく、「安い緑茶は伊藤園に任せておけばいい。」
プレミアムなライナップだけに注力している。
●同じく国分寺の榎戸農園さん。先日、クラファンの支援者向けにZoomでお話をしてもらいました。
そのなかで、榎戸農園は昔は市場出荷がメインだったということで、ある日ダイコンが1本10円にしかならなかった。落胆して、帰って家族に報告したら、「それはましな方だ。30銭にしかなからなかったこともあるぞ」と。
市場出荷は、自分で価格は決められず、そうした悲哀と隣り合わせでした。
●手書きのプライスカードは、エマリコくにたちの特徴のひとつ。しかし、税込と税別の両方の表示をすると手間がかかりすぎるから、マルシェに出る時は分かりやすく税込みで統一することも多い。
でも、そうするとちょっと問題が。税込み表示は高く見えちゃう。スーパーは税抜き価格が大きく書いてあるのがふつうだから。
たったの8%。150円のダイコンなら、12円の差。
でも、150円と書いてあるか、162円と書いてあるかが売上に響く。厳然たる事実。
●農業の話ではないが、外食産業でも値上げラッシュとなっている。
値上げで客数が減るお店と、客数が減らないお店。二極化しているみたい。
「個人店はしっかり付加価値を考えろ。そして、値上げしろ」とは、国立市で飲食店を営みつつYouTubeで発信している『居酒屋ぶちえらい』の藤村さん。インフレ下、その主張は一貫している。
チェーン店でも、『餃子の王将』なんかは値上げしているけど客数に影響がないらしい。そういうケースもある。
……とまあ、価格というものは本当に悩ましいものです。
で、冒頭の農家さんの言葉、「そうはいっても品質が高くないとね」。
おそらく思考の順序が逆なのだろう、と。
望ましい価格をまず設定して、その価格で売れるために何をすべきかを考えるべきなのでしょう。
売れなかったらどこを改善したらいいのか、真剣に考えればいいのです。
ただし、改善する箇所は決して価格ではない、というところがミソですね。
おそらくは、青果市場の価格というのは、日々乱高下しているので(株価みたいなものです)、野菜の業界はそれに慣れてしまっています。需要と供給を価格で調整することが体に染みついている。
でも、いい加減、需要をどのように作るのか、価格を下げる以外の選択肢を考える時代になってきています。
そうでないと持続可能ではないでしょう。ましてインフレの世の中なのですから。
さらに言えば、これから日本の人口はどんどん減っていきます。
なので、農業も、積極的に需要を喚起することを覚えていかないといけませんね。
では、今回はこのへんで。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。