株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2023.12.30

価値が先か、価格が先か

背景 東京農業を応援いただいている皆様

世の中、言うのは簡単だけど、行うのは難しい、というものありますよね。
商売でいうと、「インフレのなかでは、ちゃんと値上げできる商売だけが生き残れる」というのもそう。

分かっちゃいるんですけど!やれるならやってるけどさ!
という声が聞こえてきそうです。

で、具体的にどうすんだ?というときに、食べ物でいけば、「ちゃんとおいしい物を売る」。まずこれが第一。

だけど、これとて、分かっちゃいるんだけどさ!という意見もありそうです。

先日、ザク豆腐で有名な相模屋の社長さんが書いた『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』を読みました。
相模屋は不振のとうふメーカーをどんどんM&Aしています。
そのくだりで一番興味深かったのは、「不振のとうふ屋に共通しているのは、豆乳がおいしくない」との指摘です。

なるほど。豆の味がそのまま出る豆乳。
それが美味しくない。
ちなみに、M&Aをしたどのメーカーにも光る技術が必ず眠っていたそうです。つまりは、高い技術を持っているのだけど、あるべき精神というか哲学がなくなっているということでしょう。

とうふメーカーに限らず、スーパーのPBを作るようになると、品質は優先順位として劣後するようにいつの間にかなっていくでしょう。
私は、スーパーのPBといえど、製造者のロゴは入れるべきだと思っています。

これは、映画のエンドロールと同じです。

映画になぜエンドロールがあるのか?
エンドロールは作品の質とは関係がないです(メイキング映像とか見せてくれたり面白いエンドロールもあるけど)。
でも、映画の最後に、この作品は私たちが作ったのだ、という誇りと責任を明記することで、次回の制作へのモチベーションにつながるのではないかと思います。
食品にもエンドロールは必要です

話が逸れました。
豆乳が美味しくないとうふ屋は、おそらく、急に美味しくなくなったわけではないと私は推測します。

100点の味があったとして、ある日突然50点の商品を製造し始めるわけではないと思います。
コストダウンが必要になり、原料選定や工程で少しの妥協をする。ほんの少し、です。
そうして98点くらいになる。
98点と100点は、ブラインドテストしたらほとんど分かりません。

翌年、またコストダウンが必要になるとか、人手が足りないとかで、ごくごく僅かな工程変更をする。そうして95点になる。

このように、少しずつまずさが進行していく、これが本当に怖い
子どもが自分の身長が伸びていることに気づきにくいのと同じで、日々、味見していると変化に気づかないんですよね。まじで、気づかない。

東京の農業でいくと、食味を優先した品種選定ができる、この優位性は大きいです。
大産地はどうしても、品種を選ぶときに、収量や耐病性、規格均一性が大事になることが多いです。(最近は異なる傾向も出てきているようですけれど。)
その点、お客様の声に近く、農家1軒あたりの収穫量が少ない東京では、食味を重視することで大産地に対抗しています。おそらくは無意識的に。
とはいえ、それでも効率や耐病性は大事なので、いつの間にか95点になっていることはあり得ます。

5点減点だけならまだよいですが、それが積み重なっていき、結果、あまり美味しくないな!とならないように注意しなくてはなりません。

でもって、このように考えると、「ちゃんと値上げできる商売だけが生き残れる」と言われた時に、逆説的ですが、まず値上げしちゃえ、って思うのです。
できるかできないかではなくて、上げちゃう。値段を上げてから考える。

無謀でしょうか?

まあ、まったく考えなしにやるのはダメかもしれませんけれど。
でも、品質を上げることができたり、ブランドが確立されたり、競争環境が変わったら値上げしよう、と言っていたらいつまでたっても上げられない。

値段を上げることで、できることが広がります。コストを考えたときにちょっとの余裕ができる。
その余裕を活かしてどういう改善をしようか、この思考が大事だと思います。

ブランドが確立されるまでもう少し今の値段で頑張ろう、と言っているうちに、97点のものを無意識的に作っていないでしょうか?それが本当に怖い。
だから、値段から見直すことを何年かにいちど行うのは、”無意識的品質劣化”を防ぐために、とてもよい方法だと思っています。

それで取引を切られてしまうのであれば、その程度の商品だったってことです。
品質を落としてまで継続することはないでしょう。美味しいものを提供するという哲学があって、この商売を私たちは始めているのです。

多くの経営者(農業経営者を含む)が、人生ではじめてインフレ時代を迎えています。しかも、パイが大きくなっていた高度経済成長期のインフレとも異なるので、先輩の経験談を聞けばいいということでもない。
実際、エマリコも悩むことが多いです。
でも、たぶん、価値を作ってから値段を上げる、という順序ではなく、値段を上げてから価値を追い付かせる。
こういう思考が大切なのではないかと、さいきん、考えているところです。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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