社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
先日、北秋田市に行ってきたのですけれど、そこにもやっぱり頑張っている農業経営者が何人もいました。
いま、どの街に行っても、そういう新しい時代の農業経営者、いますね。
確実に雇用も生まれています。
この10年間で、流れは間違いなく変わったと思います。
ところで、高名な茨城県の有機農家・久松農園さんの著書『農家はもっと減っていい』(光文社新書)は話題になりました。
小規模農家ならではのマーケティング戦略のページなど、唸らされるところばかりです。
このタイトルの主旨としては、統計上、売上高500万円以下の農家が8割いる、と言うのです。
でもって、農家が減って大変だ!と、ニュースも行政も騒ぐわけですけれど、売上高で500万円というのは元々暮らしていけるレベルではないです。売上なので。肥料、生産資材、包装資材、農業機械、人件費、電気代その他のコストは必ずかかります。
統計的にそういう農家が減っても、どのくらい問題だろうか?というのが本のタイトルの意味となります。
私はあまり普段使い分けていないのですが、あえて表現すれば、「農家」という大きなくくりがあって、そのなかに「農業経営者」と「非農業経営者」がいるということになるかと思います。
いまのニュースは、「非農業経営者」の部分が減っていることをことさらに大きく取り上げて、担い手がいなくなる!と言っているのです。
それでもスーパーから野菜やコメが消えない背景としては、1経営単位(農家・生産法人)あたりの生産高はどんどん増えているからなのですが、そのことを報じているニュースはまず見かけません。
ここで気を付けなくてはいけないことがあります。
政策は、あるいは報道は、ミクロとマクロは分けて語られるべき、ということです。
ミクロの観点から言えば、たとえば私は東京都の農業の大大大応援団です。
農業経営者かどうかは一切の関係はなく、仲良くなった農家が丁寧に作ったものは全力で売りたいですし、そもそも農地を残したいので、その農地の所有者の人格・能力・家族構成などは、究極的には関係ありません。(究極的には、ですよ。嫌な人や不真面目な人からは買いたくはないです。)
一方で、マクロの観点で、日本の農業全体の将来像を考えていくと話は変わります。
政策目的によりますが、一番よくあるのが、農業者数の減少と食料安全保障を結び付ける論調です。
しかし、このブログで再三述べているように、農業者数が減少しても農業生産高は減りません。産業というものは、国の政策がなにもしかったとしても、生産性は上がってしまう法則があるからです。
花きやタバコなどの特殊用途は別として、日本人の胃袋が減っているトレンドのなかで、農業者数を維持しようとすればどこかに無理があることに気づくはずです。
(では新規就農はいらないのか?と言えば、それはまた違う論点があります。その点は後日書きたいと思います。)
地元の農家を応援するのは当然の心情で、どんどんやっていいのですが、マクロ的な国家政策にはならない、のです。
たとえば、私はプロ野球が好きですが、スポーツ振興予算はもっと野球に偏らせろ、と主張しないのと同じです。
このミクロの議論とマクロの議論の取り違えがよく起きるのが「規格外品を活用しよう!」問題です。
当社でも、規格外品を活用した商品を出すときがあります。
これは単純に農家の経営支援・マーケティング支援として、一緒にやらせていただいているものです。
ミクロ的な観点、私の隣人を助けたいから、の応援です。
一方で、なにもつながりのない団体や大学から、規格外品を活用したい、という話が持ち込まれることがあります。
こういうときは、8割がた、スタート地点が「フードロス問題」です。
以前、「畑での作物廃棄はフードロスなのか?」というタイトルの文章を書いたので、そちらを詳しくは参照してほしいですが、ともかくも、フードロス問題というのは、マクロ視点からの課題設定です。
マクロ視点で課題設定をした場合、フードロス対策がいいことかどうかはかなりの議論の余地があります。
フードロス対策をすると、供給は増えてしまいます。(供給が増えるのはいいことだろ!と言う人は、経済学の基礎からやり直しましょう。)
供給を増やせば、価格が下がります。
価格が下がれば、それこそ離農が増えます。
離農は、農業生産効率の低い、中山間地域から起きていきます。
それがマクロ視点、です。
規格外品を活用したいという学生さんたち、中山間地域に耕作放棄地が増えることは、本当にSDGsの理念に適っていると思いますか?
(どっちかと言えば、指導教官の問題でしょうけど。)
マクロ的に正しいのは、いかに正規品を高く売ることができるか?という課題設定ではないでしょうか。
あるいは、フードロスになりそうなものを、胃袋と関係のないところで商売にする。これならマクロ政策としての筋が通っていると思います。
もっとも、正規品さえ安定供給が難しい農業の世界で、規格外品の安定供給はもっと望めないので、それを継続的なビジネスにしようとすれば固定費が重くのしかかることは覚悟しなくてはいけません。(ほぼ誰も指摘してないけど。)
というわけで、ちょっと難しいことではあるのですが、足元の小規模な農家さんを応援することと、マクロ的に「応援するべきだ」と言うことはかなり違うんですよね。後者は、政策的な財政支援とかにつながってしまいます。
農業経営的努力をしていない非農業経営者に、そういった支援は必要ないと思います。
たとえば、いま、半農半Xといった概念も普及し、地方に移住して農業を始める人も増えています。半分、自給自足みたいな。
そんな生活はすごくよいものだろうと思います。
しかし、気を付けないと、そういう方にも農業の産業上の財政支援が行ってしまったりします。それは、やっぱり、おかしい。
茨城県の有名な直売所「つくばの村」は、農業経営者しか出荷できないことで有名です。
そういう直売所がもっと増えてもいいと思います。
もちろん、私が『マイナビ農業』の連載『直売所プロフェッショナル』で指摘したように、直売所は地元のお年寄り農家の”おすそ分けの拠点”でもあるので、その意義を否定することもできませんけれど。
知り合いの農家を応援するために何をすべきか?と、マクロ視点で国や国民は何をすべきか?はかなり異なる。その主張は、自分のそのときの立場によって変えなくてはならない。(ゆえに、私の主張は矛盾して見えるときがあるかもしれません。)
この原則がかなりナアナアになっているなあ、と感じている今日この頃です。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。