株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2019.02.16

食品ロス論考 ~小売店のこと

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

節分の「恵方巻」、ワイドショーやネットニュースの種になりました。廃棄がものすごく多いというのです。
うちの店では恵方巻を出していません。いまや食品小売店としてはむしろ珍奇な存在かも?

そんな中立な立場から、恵方巻廃棄問題を考えてみたいです。
そもそも根本の問題はなんでしょうか?

というのも、的外れな指摘も多いのです。問題にしたいから問題に仕立てているのですね。
「小さな商店では恵方巻を大量廃棄していたりせず、売り切っていることが多い。スーパーやコンビニは大きなロスを出して結果的に消費者がそのコストを負担している。」

小さな商店を応援していただいて、ありがとうございます。でも、それは誤りです。
スーパーやコンビニはたくさんのお客様が来店するので「大数の法則」が働きます。だからかなりの精度で販売数の予測をすることができます。棄てているように見えますが、元の売上が大きいので儲けは出ているはずです。
でなければ、上場企業が毎年やる理由がありません。
(当り前の算数ですが、原価率33.3%の商品は、3つのうち2つが売れ残ったとしても、販管費を別にすればプラスマイナスゼロです。半分売れたら余裕で黒字です。)

しかし、たとえば「しゅんかしゅんか」の客数は、店にもよりますが、国立なら1日100名から200名のあいだです。2倍の振れ幅、大数の法則のかけらもない。だからちょうどよい数の商品を用意するのは不可能です。
もし多く発注しておいて予測が外れたら大惨事。
すなわち、小さな商店は、売り切って胸を張っているのではなく、機会損失のリスクがあることを分かりながら泣く泣く少なめの数を仕入/製造しているのです。

廃棄リスクと機会損失リスクのてんびんが、大型店と小型店ではどちらに傾くのかが異なるわけです。

さて、そういう事実、つまり「食品廃棄と売り切れは表裏の事象」であることを、お客様がしっかり理解してくれたら、私たち小さなお店の商売はどんなに楽なことでしょう。
「お店が小さいから売り切れも仕方ないね、また来るね。」
しかし、現実としては、せっかく来たのに売り切れだったら、やっぱりお客様はがっかりされます。がっかりすれば、ふたたび足を運ぶことはないか、やや頻度は落ちてしまうことでしょう。

ですから、小さなお店も目前の機会損失を怖がるべきではありません。それは長期的な客離れを呼びます。

恵方巻と違って、野菜は節目の日付けはありません。なので、「しゅんかしゅんか」店頭には翌日に繰り越してしまった値下げ野菜が存在します。毎日農家さんのところから新しい野菜が来るためです。
値下げ野菜は「売れ残り」の可哀そうな存在に見えますが、売り切れによってお客様をがっかりさせず、食品ロスも出さないための大事なツールなのです。農家から到着2日目なので、一般的な商品よりはまだまだ新鮮です。

ところで、食品廃棄については的外れな指摘も多いですが、食への関心の高まりという時代背景が食品ロスを大きなニュースにしているという面もあるでしょう。

私たちの生活の根底にある食。それを作っている1次産業。
恵方巻の廃棄が大きく取り上げられることと、1次産業に従事する農家さんや漁師さんが「なんだかかっこいいね」と思われるようになってきたこととの間には、通底する時代背景があるように思われます。

かっこいい人が一生懸命作ったものを捨てる。それは心ある人間には難しいことです。
ですから、食品ロスの問題の根本には生産者の顔が見えない状況があり、我ら地産地消チーム(そんなチームあったかな?)の役割は大きいです。

最後に。「30・10運動」をご存知でしょうか?

当社は飲食店も経営していますが、大きな規模のパーティのときには必ずといっていいほど、お皿に料理が残ります。みなさんもきっと経験があると思いますが、かくいう私も名刺交換で終わってしまって箸すら持てない交流会というのがあります。
(恵方巻の廃棄を声高に批判しているメディアのパーティをのぞいてみたいものですね。)

「30・10運動」は、宴会の最初の30分と最後の10分は、食べることに集中しよう、という運動です。
松本市ではPR用のコースターも配っているそうです。
また、松本市のホームページには、予約の際に男女や年齢層を伝えて適切な量を用意してもらえるように店側に依頼しましょう、とあります。たとえばお年寄りが多いとき、私たちお店側としてもそういった情報があると助かります。
参加者全員がラガーマンだったら、それはそれで教えてくれないと困りますし笑!

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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