株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2024.02.19

流通屋から見た新規就農論 その1

背景 東京農業を応援いただいている皆様

「新規就農したいのですが」という相談がたまに来るので、この文章を書くことにしてみました。

「その1」とタイトルに書いたのは、そのうちまたこのテーマで書く気がするから。ま、気がしているだけで、未定ですけれど。

ここで言う新規就農は、まっさらからの就農を指します。定義によっては、親元を継承することも新規就農と言うことがありますが、今回は狭義の新規就農についてです。

■新規就農とは起業である

まっさらからの就農。それは起業、です。

すなわち、必要なのはアントレプレナーシップ。

これが明らかに足りない方の相談がままありますね。

起業には、根性、胆力、戦略、計数、知識、そして、人格。すべて必要です。
ひとつとして欠けては難しいです。
(欠けていなくても、成功するとは限りません。)

まず、新規就農とは起業である。
この原則を確認する必要があると思っています。

■起業であるとするならば、何を学ぶべきか?

新規就農が起業であるとすれば、事前にどんな知識を得ればいいでしょうか?

こういうときは、ほかの業界を眺めてみればいいです。

たとえば、ラーメン屋さんです。統計上、ラーメン屋さんを長く続けるのが大変なのはみなさんご存じのとおり。
しかし、本来、農業だってたいへんなはずです。

ラーメン屋さんの起業講座があったとして、どんな内容でしょうか。
ラーメン作りの技術を教えてくれる?たぶん、多くの場合はそうではないです。

ラーメン店にはそれぞれの特徴あるレシピがありますが、基本的なところしか共通していません。基本的な作り方だけ教わっても人気のラーメン屋さんはぜったいに作れません。

ラーメン屋さんの起業講座があるとすれば、既にオリジナリティあるラーメンを作れる人に向けて、経営手法を教えるものになるでしょう。

具体的にいえば、「店舗デザイン」「販売力」「経営計画」「採用」「資金繰り」といったことです。

ふつうの業界では、起業する場合は、事前にこういうことを勉強します。
ところが、農業界では、栽培技術を一生懸命勉強しようとしています。もちろん、それは大事です。

しかし、マーケティングの4Pというフレームワークがありますが、Product=製品はひとつのPにすぎません。
Price=価格、Place=販路、Promotion=販売促進なども必要になります。

率直に言って、ラーメン屋さんをやりたい人が、開店の時点で美味しいラーメンを作れるのは当たり前のように、新規就農したい人が、就農した時点で美味しい野菜を作れるのは当たり前です。
畑を得てから技術を伸ばそうというのは虫がよい話だと思います。
(なお、厳密にいえば、美味しさだけでは意味がなく、安定的生産も含めた技術です。)

「新規就農したいのですが」と農業経験のない方に言われたら、まず農業生産法人で働きましょう、と言います。
ラーメン屋さんを作る人は、どこかで修行しています。これは100%です。そのなかで才覚がある人だけが店を構えることができる。農業も同じです。

■起業の絶対方程式

そして、もしかすると、ラーメン屋さんよりも難しい起業であることを覚悟した方がいいです。

なぜか。

それは、農業は1年に1回しかPDCAが回らないから、です。

これは、とんでもなく大きな足かせだと思ってください。
起業とは、PDCAの繰り返しです。改善、修正、反省の繰り返し。
ラーメン屋さんであれば、やろうと思えば、スープを毎日変えることもできるし、接客スタイルを毎日変えることもできます。で、改善していく。

でも、農業は毎日変えていくことはできません。

起業の絶対方程式があります。

黒字になるのが先か、資金が尽きるのが先か。

極論、起業が成功するかどうかは、このタイミングのどちらが早く到達するかというだけの話です

よほど筋が悪くない分野であることが前提ですが、PDCAを忍耐強く回しまくれば、いつか損益分岐を超えます。
しかし、いつかは超えるものの、その前に、資金が尽きる時が来てしまう可能性があります。

この起業の絶対的方程式を前にしたときに、1年に1回しかPDCAが回らない、というのはものすごい大きな壁です。
なにを隠そう、エマリコくにたちもこのサイクルのスピードの遅さ、なめてました。この文章には実感がこもっています(笑)。

■初代に学べ

農業は、2代目、3代目、なんなら20代目とか、そういう人たちがやっている業界です。
(ラーメン屋で10代目なんて聞いたことがないです。)

しかし、すでに経営資本がある人がやっている農業と、ゼロから始める新規就農はまったく異なる作業です。
なので、そういう農業界を見渡して、自分でもできそうだ、そう思うのは誤りです。

私は野菜を販売するなかで、代々の農家で、素晴らしい方をたくさん存じ上げています。
ですが、そうした方は、偉大ではあるけれど、新規就農の人たちがなぞるべき姿ではありません。

新規就農した人は、新規就農で成功した人により多く学ぶべきです。
ラーメン屋を始めようという人は、ラーメン屋を自分で始めた人に教わりに行くでしょう。親からお店を継いだラーメン屋さんからはラーメン作りの技術は学べますが、その他の学びは相対的には少ないです。

なんとなれば、経営を学ぶという観点では、農業界の先輩である必要すらありません。とにかく、自ら起業した人の話を聞きましょう。

これはどっちが偉いという話ではなく、商売をやっている方は頷いていただけると思いますが、0⇒1と、1⇒10は、まったく異なる仕事なのです。

■未来を拓く

立ちはだかる壁の話ばかりを書き連ねました。
今回のブログは暗いなあ……。(あ、いつもそうですか?)

しかし、です。
新規就農は素晴らしいことだと思います。
より一般化すれば、起業は社会的に大きな価値があります。

しつこいようですが、起業とは、0⇒1を実現することだからです。

立川市や国分寺市の農家さんの多くは、江戸時代の玉川上水の開削に伴って、新しく入植してきました。

当たり前のことですが、どんな経営体であっても、それが10代目であろうが、100代目であろうが、あるいはトヨタ自動車のような巨大企業であっても、0⇒1を成し遂げた人がどこかにいたわけです。

だから、未来のために、0⇒1をぜひやりましょう。

そして、0⇒1が成功したパターンには、陰に日向に支援してくれる人がきっといたはず。
このブログを読んでいただいているみなさんも、PDCAが1年に1回しか回らない業界に果敢に突撃していくアントレプレナーを、応援いただけたら嬉しく思います。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

Photo

株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

PageTop