社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
直売所って、けっこう、特殊な商売だと思います。
一般的な直売所は、委託式で、商品を預かっているにすぎないためです。
(「しゅんかしゅんか」は買取り式なので、ちょっと異なります。)
そもそも農産物直売所は、小売業と言えるのでしょうか?
ここで、小売業とはなにか。
お店があることは条件ではありません。通販も小売業ですから。
商品を消費者に届けるというだけでも小売業とはいえません。運ぶだけなら、運送業になります。
ひとつは、目利き、つまり品物のセレクションを消費者に代わってすること。これが小売業の大事な要素のひとつです。
もうひとつあげるとすれば、消費者の需要をひとまとめにすることで、コスト低く商品を届けるという役割もあります。
とまれ、目利き、というところでいくと、委託式の農産物直売所は100%の力を発揮にしくいです。
周辺の生産者に、それを任せている形になってしまっているからです。
この商品はあまりお客様にオススメしたくないな……。そう思っても、そういう商品も入荷してきてしまうのが委託式の辛いところです。
目利きというのは品質面での差別化ですが、そのほかの面でも差別化しにくいのが農産物直売所です。
たとえば、ブロッコリーの在庫がたくさん余っている。
じゃあ、値段を下げよう!
ということは簡単にはできません。委託式は、あくまで預かっている商品だからです。お店に所有権がないのです。
あるいは、今日はミカンが早々に売り切れてしまった。
じゃあ、明日はもっとたくさん入荷させよう!ということはけっこう難しい。
何をどれだけ出すかは、生産者に任されているからです。
ジャガイモとニンジンとタマネギを同じ袋に入れて、「カレーセット」にして売ろう!
なんてことも勝手にはできません。
そういう意味では、委託式って、なかなかタイヘンなんですよね。
いわば「手足を縛られた業態」なのです。
「売上をもっと上げろと言われてもね……」、という直売所の店長の愚痴が聞こえてきそうです。
もしかすると、面白い仕事だと思えない人もいるかもしれないです。
もっとも、できることが少ないからこそ、急に異動してきた人でもいちおう務まる、というメリットもあるのですが……。
「しゅんかしゅんか」は買取式なので、自由に販売促進ができます。
だから、現場の店長が活き活きとしてきます。その代わり、経験が浅いとなかなか務まらない面があります。
一方で、当社でも委託式の直売所があります。
それが多摩市にある「アンテナショップPonte」です。
委託式の常として、日によって野菜が多かったり少なかったり、かなり差があるのでお客様には迷惑をおかけしています。
ただ、Ponteのスタッフは、納品に来る生産者さんと積極的に話をします。
「もっと○○を持ってきてほしい」
「もっと高い値付けでも大丈夫」
「今年は、○○の作付けをしてみてほしい」
LINEも頻繁に送って、店頭の状況をシェアします。
そうしたこまめなやり取りが、だんだんと売上を伸ばしていくのです。
ぶっちゃけたところ、最初はぜんぜん耳を傾けていただけないこともあります。
でも、だんだんと打ち解けていくと、「ちょっとだけ、作ってみようか」となったりします。
その地道な作業を我慢強くできるかどうか。
委託式の直売所の店長は、そうした資質が求められるのだと思います。
最初の問い、「そもそも農産物直売所は、小売業と言えるのでしょうか?」に戻ると、そうとも言えるし、そうとも言えない、というのが答えです。
生産者と二人三脚の関係になっているのであれば、目利きや柔軟な販売促進をできているという意味で、小売業と言っても差支えないでしょう。
一方で、ただ単に商品を預かる、というだけなら、小売業と表現するのはちょっと違和感がありますね。
「場所貸し業」、あるいは「レジ打ち代行業」と言った方がしっくりくるかもしれません。
皆さんの近所の直売所は、どちらですか?
※※※※※
委託式の直売所のメリットとデメリットは、マイナビ農業での連載『直売所プロフェッショナル』に詳しいので、ぜひこちら(リンク)もご覧ください。エマリコくにたちでは、農産物直売所のコンサルティングも請け負っております。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。