社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
もっと高い価格で取引したい。これは多くの生産者の希望だと思います。
しかしながら、価格は自分で決めるものではなく、需要と供給の関係で決まってくるものなので、そうそう簡単に値上げするわけにはいきません。
直売所が生産者にとって良い販路である理由として、「自分で価格が付けられる」というのがよく言われます。
青果市場では値段は売れたあとにはじめて分かるので、それと比べるとたしかに価格に対する主導権が生産者側にあります。
ただ、直売所であっても、その価格を長期的に高く設定したままにできるかどうかは、結局は需要と供給の関係で決まります。
つまり、自分で値段を付けることと、望ましい値段を付けられることは異なります。
では、どうすればいいのかといえば、差別化しなくては、ということになります。
これは青果市場に出すのでも、直売所に出すのでも、ネット通販に出すのでも同じことです。
需要と供給の関係で価格が決まるのは、需要側にも供給側にもプレーヤーがたくさんいるからなので、差別化することで他のプレーヤーを排除する。
そのことで価格決定の主導権をより強く握ることができるわけです。
というところまでは教科書どおりですが(もっとも、この基本を理解していない学生インターンも多いのですが)、じゃあ、どうしたら差別化できるんですか、と言われると難しい。
楽天市場で、こんなコピー文を見つけました。
『(とある品種名)は、〇〇県でしか栽培されていない珍しいお米です。
収穫量が少ないので幻の米ともいわれていて米粒は、お米の中でも1,2を争うほど大きさです。』
どうでしょう?買いたいですか?
ここで、「幻の米」という単語で楽天市場の”白米”カテゴリ内を検索してみます。
そうすると、、、
323件もの商品がヒットします。
そうなってくると、幻(まぼろし)って何をもって幻なの?
日本中、幻だらけじゃん!
ということになってしまいますね。
地元では珍しいのかもしれませんが……。
ことほど左様に、差別化って本当に難しいわけです。
差別化には、本質的なものと、非本質的なものがあります。
「幻の米」というキャッチコピーをつけるのは、非本質的です。お米そのものの価値ではない。
言いかえれば、すぐに真似ができてしまいます。
本来、差別化は、本質的なものでなくてはいけません。
そうすると、結局は、栽培技術に由来する食味とか、生産者のストーリーが深く刺さるとか、そういうことが大事なのかな、と直観的には思ってしまいます。
しかも農業は、美味しいものを作り出すまでにものすごい長い年月がかかるものですから、ちょっとした小手先の差別化、つまり非本質的な差別化に頼りたくなってしまうものです。
でも、視野を広げると、本質的差別化も色々とあるんですね。
先日、『がっちり!マンデー』の”1億円プレーヤー農家”でも取り上げられていましたが、加藤えのきという会社は、食味では差別化が難しいえのきで、差別化を実現しています。
それは大きさ、です。
えのき業界は、決まった大きさのプラスチックのビンでえのきを栽培することが一般的になっているのですが、加藤えのきのビンは特注品の大きいもの。ビンを並べるトレーも特注です。
そうすることで、1.5倍の大きさの株が取れ、それがヒットしたとのことです。
大きさなんてすぐに真似できそうなものですが、ビンも特注でトレーも特注。そして、その大きさを求める顧客との強いパイプがすでにできあがっています。100%本質的な差別化とは言えないかもしれませんが、すぐに真似するのは難しいわけです。
僕ら食べ物を扱う人は、どうしても食味とかに差別化を求めがちです。で、どうしてもできないと、かっこいいロゴマークとかネーミングとか、非本質的な差別化に走ります。しかし、それは長続きしません。
もう少し大きな視野で差別化できるポイントはないのかと考える。あるいは、加藤えのきのように、業界の常識を疑ってみる。
もちろん技術に裏打ちされた食味が差別化の一丁目一番であることは変わりません。
けれど、場合によっては、もう少し視野を広げたアプローチも必要ではないかと思います。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。