株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2017.03.15

3・11に寄せて~東京農業を考える

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

3月11日。忘れられない災厄の日として記憶されています。この日にブログを更新しようと思っていたのですが遅くなりました。今日の投稿に写真はありません。

今年の3月11日の日経新聞にこういう記事がありました。

『福島産野菜 なお安値』(18面)

「……福島県産農産物の農作物の価格は徐々に全国平均価格に近づいているものの、震災前の水準には戻っていない。特に果物や和牛は風評を拭いきれず価格は伸び悩んでいる。」

この問題をどう考えるか。

私が小さいころには、埼玉のダイオキシン汚染報道なんかもあって、これも実際にはほとんど問題がなかったのにもかかわらず、長く風評被害があった。

福島については、なにがしかの科学的根拠から、意図的に避けている人もいるかもしれない。いちおう私個人の見解を述べておけば、健康上の理由から、東京の人があえて福島産のものを避ける必要性は200%、ない。ま、それは個人の主体的判断なので置いておこう。科学的根拠派はおそらくごくごく少数だし。問題は、たいした根拠のない風評の方だ。

よくよく考えてみると、私は飲食店を長くやっているが、「ここの料理に福島産は含まれますか?」と聞かれたことは一度もない。つまり、外食の時には誰も聞かない。それなのに、買い物のときには手に取らないことを、恥だと思ったりはしないのだろうか?

そういう感情が起きないのは、消費と生産が離れているからだと思う。

生産の現場には、汗水を流しながら美味しいものを作っている人がたくさんいる。その感覚がないのだろう。

正直、私も、この仕事をするまではまったくなかった。野菜や果物は、どこにいても空気があるのと同じくらい当たり前に、スーパーに並んでいるものだった。

知らないことについて、人間は冷淡だ。

飛躍するようだけど、東京の農業の役割は、そこにあると思う。

学問的には「多面的機能」と言って、都市の農地には、景観やヒートアイランド防止や生態系を守るといった機能があるとされる。それも大事だ。でもいちばん大事なのはそこじゃない。

東京の自給率は、金額ベースでわずか3%。当社は東京農業活性化ベンチャーと自称しているけど、東京で自給自足ができるなんて夢物語を信じているわけではない。

でも。

その3%を身近に感じることができたら。生産者の思いを想像することができたら。

きっと残りの97%の生産者にも、思いをいたすことができるのではないか。そう信じている。

また話が飛躍するようだけど、野球のWBC大会で、日本チームが活躍すればみんな嬉しい。私はアンチ巨人なんだけど、WBCでは坂本や菅野にも頑張ってほしい。その頑張りを、目で見ることができたら、応援しようと思う。同じ日本人なのだから。

遠い福島の頑張りは目に見えない。かくいう私も震災後にはいちどしか訪問していない。でも、東京で寒い冬の朝にも、夏の炎天下にも、働いている農家さんを見ていたならば。

同じように、福島の大地が耕されていることも想像できる。

いわば、農業を知らない都市市民にとって、東京農業はスポークスマンなのである。

「リンゴがここにあるのは、誰かが収穫したから。」単純なことだけど、都市市民はそれを知らない。

だから、東京に農業は必要だ。

 

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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