株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2025.02.13

ライスのプライス、これでいいっス?

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拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

お米が高い!!

と、ほんとうに思いますか?

私はまったくそうは思っていません。
まあ、お米も売っているお店の代表がそんなこと言ったって説得力ないですよねえ。

でもね、白米1キロは6.7合分ですが、1キロ670円だとして、1合あたり100円
1合って、そうとうな大盛りです。ごはんは栄養価も高いですし、食パンやラーメンに比べて、ことさら高いってことはないと思うんですけどねえ。
まあ、売っている側が叫んでも仕方ないのかあ……。

なお、キャベツの高値については前回のブログで書きましたが、コメとキャベツでは状況がまったく異なりますので、今回は別の話をしていきます。

ところで、いま手元に会社四季報が作っている『業界地図2025年版』というのがありまして、これがかなり面白いんですね。
なんでも「余白は敵だ」というスタイルで作られるらしくて、情報がこれでもかと詰め込まれていて。この情報量を毎年作るというのは、ちょっと想像を絶します。

それはともかくとして、パラパラめくっていると、日本にはすごい大きな売上、大きな利益を上げている会社がたくさんあるなあ、というのがまずもっての印象です。不況と言われているけど赤字の会社はなかなか見当たらない。
余談ですが、実際のところ、日本の輸出額(現地生産額ではなく純然たる輸出額)を見ると、バブル崩壊を経ても変わらずに増加し続けています。つまり現在の円安になるずっと前からです。「日本製品が売れていない!」とコメンテーターは言いますが、それはテレビやパソコンのような消費者から見て目立つものであって、全体の金額としては増えているんですね。繰り返しになりますが、これは円安になる前からの長く続く傾向です。
それなのに貿易赤字になるのは、エネルギーと食べ物を大量に輸入するからです。

話を本筋に戻します。
この『業界地図2025年版』で、コメ農業全体より規模の大きな会社がどのくらいあるか見てみよう、と思い立ちました。1社で売上高がコメ農業全体を超える大きさです。
どのくらいあると思いますか?

まあ、単純比較になんの意味もないんですが、遊び半分に探してみると、、、

結論としては、ものすごくたくさんあって数えきれないです。

コメ農業の産出額は1.4兆円くらいです。
兆がつくととんでもない大きさに思えますが、ビジネスの世界では小さいかもしれません。
ちなみに、野菜は2.2兆円果物が0.9兆円です。

ここでコメ農業と同じ規模の会社を探してみると、三菱電機が1.4兆円でした。
三菱地所1.5兆円、楽天グループ1.2兆円だそうで、食品業界では日本ハムが1.3兆円とのことです。
素晴らしい企業ばかりであり、どれもグローバルの売上の合計ではあるのですけれど、1社だけでの数字です。そしてこれらの会社より大きな会社もたくさんある。コメ農業がいかに大きくないかが分かりますよね。

ちなみに、野菜2.2兆円と同じ規模は、私の古巣である三井不動産(2.3兆円)でした。

(外食業界のページには、日本マクドナルドHDの国内売り上げが7700億円とあります。そりゃあ自給率上がらないよねえ。)

大きな売上の企業はそれぞれの努力の結果でそうなっているわけで、それはリスペクトすべきですけれど、一方で農業が努力していなかったとは私は思いません。
戦後、農業も売上高をどんどん向上させたのですが、それをはるかに上回るスピードで他の産業が成長していったので、大きな差になっているのが現在です。これにはいくつかの要因があります。

そのひとつは、以前にも紹介した「農業は1年に1回しかPDCAが回らない」というものですが、他の要因も指摘しておきたいと思います。

”ポーターの5フォース”という業界分析方法があります。
それで見てみると、農業はかなりのツラさです。

詳細はマイナビ農業の記事に譲りますが、自業界のプレーヤー、つまり農業生産者の数ですが、言うまでもなくめちゃめちゃ多いです。
売り手や買い手は少なく、そして代替品の脅威もある。コメでいえばパンや麺類です。手ごわいですね。
新規参入だけは容易とはいえないですが、現在は多くの自治体が新たな農業の担い手をあの手この手で誘致しています。

と、まあ、こういう状況にあるのが農業です。
儲からないのは生産者が頑張っていないというわけではなくて、業界構造でそうなっている側面があるのです。

農業の5フォースについては、3年前にマイナビ農業で書いたJAについての記事で解説しました。先ほどの図もこの記事からの引用です。詳しくはそちらを。
「フォースのご加護があらんことを!」というセリフが出てくる、我ながらなかなかふざけた記事でした(笑)。
いまさら聞けない「農協」とは【第2回】~農協の本質は「数で対抗」~ : マイナビ農業
https://agri.mynavi.jp/2021_05_04_156502/

そういう業界構造を変えようという議論もありうるかもしれませんが、私はこれに関してはわりとどうしようもないとも思います。
そして、業界構造の帰結として農家の交渉力が弱い。

でもって、最初の問いに戻ります。

お米は高いですか?

単純計算で、1.4兆円を人口で割れば、ひとりあたり年間1万円です。もちろん中間流通があるので、消費者が支払っている金額はもっと高いですけれど、私たちがコメ農家に支払っている金額はそんなものなのです。

たとえば、東京から名古屋までの新幹線自由席が1万円。ちょっとよい美容院に行けば1万円。ゴルフを1ラウンドすれば1万円(ほかに交通費や道具代もかかる)。

僕たちは他の産業には、結構なお金を払っています。その結果が各産業の規模となり、『業界地図』にある各社の売上高となります。B2Bの企業であっても最終的な負担者は消費者です。

それらの消費額と比べたとき、お米、高いですか?

もちろん、農水省がコメ農家を支える政策をすれば米価は下げられますけど、原資は税金なので、国民にとっては、税金として支払うか店頭で支払うかの違いしかありません。(どちらにするかで、パンや麺類に対抗する観点や年金受給者が支払うかどうかの観点などで差は出てきますが、その話は割愛。)

現在の高値について、中間流通業者が暴利を取っているという仮説も出てきています。私はそんなことないと思いますが、百歩譲ってそう考えるのであれば、産直ECサイトや当社のような直売所で買えばいいのです。そこで取られる手数料が暴利であることはありません。きちんと生産者の手取りになります。

田んぼというものは多面的機能があり、食料供給もですけれど、治水にも役立っていますし、景観や食育、コミュニティ作りなども機能もあります。
これらを支えることも必要なのではないかと私は思います。

お米、高いですか?

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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