株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2022.11.15

だって生産性は上がっちゃうんだもの

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拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

前々からFacebookでは書いていることなのですが、あらためて。

急に質問ですが、昔の路線バスには2名のスタッフが乗っていたのをご存じですか?

私が物心ついたときにはもう「ワンマン」になっていました。でも、その頃は、わざわざ「ワンマン」と大きく書いてあったので、一般的とまではまだ言えなかったのではないかと思います。
ワンマンでない場合は、車掌さんがいたわけですね。

当然のことながら、2名必要なところが1名になったので、働く人の数は半分になりました。
そのかわりに自動の運賃箱というものを乗せることにしたわけです。

さて、ここで、「働く人が半分になったので、バスの業界は衰退した」という人はいません

ところが、農業界のことになると違いますね。
「もうすぐ働く人が半分になってしまう、農業の衰退はとんでもないところまで来ている」
という人が世の中にたくさんいるんですね。
ふしぎなことです。

産業には普遍的な定理があります。
どんな産業でも、程度の差はありますが、従業員も経営者もそれなりに頑張るので(あるいは楽をしたいので)、仕事の効率は少しずつ良くなります。ざまざまな事情によって改善スピードの差はありますけど。ともかく大きなトレンドでは生産性は向上していきます。これが普遍的な定理です。

で、その産業の良しあしは、生産性の行方とマーケット規模の行方によるわけですが、農産物のマーケットの規模というのはさほど大きくは変わらない。まあ、輸入品にやられているパートはあるわけですが、めちゃめちゃになっているわけでもなく、押し返している分野もある。そして、日本人の胃袋の数というのはそう大きく変わっていない。

マーケット規模が変わらない状況下で生産性が向上したら、どうなるか?
働く人数は減ります
バス業界と同じです。

(バス業界に運賃箱が登場したように、農業界にはトラクターもコンバインも自動潅水設備も、なんなら農業用のドローンまでも登場しているわけです。もちろん生産性を向上させる要因は機械化以外にもたくさんあります。)

誰だって楽をしながら利益を出したい。なので、生産性というのは向上”してしまう”のです。
その結果、生産性が高まった産業の姿を、衰退していると言うのはちょっと違います。

これは農地の単位面積あたりの生産性でも同じことが言えます

生産性が向上したら、必要な面積は減る。ちょっと考えると当然の帰結です。

したがって、耕作放棄地がたいへんだ、と言う人は多いわけですが、
マーケット規模が同じ、かつ、生産性が上がる ⇒ 田畑が余る
このロジックに議論の余地はありません。

耕作放棄地は、それを抱える農村コミュニティにとっては大問題です。
しかし、そのことと、農業という産業の衰退や食料の確保と結びつけるのは誤りなのです。

それを一緒くたにして、「農業がやばい!」って言っている人の多いことと言ったら。

で、その結果として、政策が正しい方向になればいいんですけど、ならないんですね。

これは、3年前くらいに、「需要のある所に供給ができるという基本ロジック」で詳しく書いたので読んでいただけたらと思いますが、耕作放棄地をやたらに田畑に戻したら、価格が下がって産業としての農業を苦しめることになります
マーケットが大きくなっていないのに、公金を投じて新しく工場を建てる業界はありません。でも、農業界だけは、「新しい”工場”を作るので補助金ください!」って言っている。
おかしな話だと思います。

とまれ、生産性が向上すれば、投入すべき資源(それがヒトであれ土地であれ)は少なくなります。
そのために問題が起きているとすれば、それを解決するには、マーケット規模が拡大する以外にはありません

今回はこのあたりで。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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