株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2023.02.12

農業に必要な異次元の政策とは

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

こういう記事があった。
『JAグループ 農業・農村基本法見直しで、平時を含む食料安全保障の強化』
(日本農業新聞2月10日付)

ここで平時とはなんだろうか。
おそらく、平時も食料安全保障を強化するために、農業・農村を支援しよう、という主張だろう。
しかし、平時が輸入物流が途絶えていない状況を指すのだとすれば、理論的には、食料安全保障は生産国のポートフォリオを組んでリスクヘッジした方が良い。
なぜなら、日本自身が大災害や病虫害に襲われるリスクもあるわけなので。鳥インフルエンザ感染症の状況を見れば明らかだ。
調達先は多様な方が安全保障的にはいいのである、平時なら。

したがって、金額ベース自給率が60~70%というのは、リスクヘッジという意味でわりと妥当な数字のように思える。

誤解のないように、私は自給率はあげたほうがいいという立場であることは断っておきたい。
しかし、「平時の食料安全保障」という主張をしてしまうと、上記のような結論を導いてしまう。
中山間地域に支援の手を厚くするために、いろいろ言葉をひねり出した結果、矛盾を生んでいるという印象だ。苦心がうかがえる。

前から主張しているように、需要喚起なく、中山間地域農業をたとえば直接支払いや新規就農支援で支える政策は、一方を助けながら、一方を苦しめてしまう。人口減の世の中なので、至極単純な話だ。
つまり、ほとんど効果がないのである

※参照ブログ『需要のある所に供給ができるという基本ロジック』 https://emalico.com/blog/we_need_needs/

もっといえば、人口は減るので田畑はこんなにはいらなくなる。自給率が100%に近づいたとしても、だ。

●移民政策をとらない前提において、人口が半分になることは確実視されている
●現在でも、金額ベース自給率が60%以上、カロリーベースで40%ある
●農業の単位面積当たり、あるいは労働者当たりの生産性は少しずつ改善する(農業法人は多かれ少なかれ努力をするので。)

この単純な計算の結果どうなるかは衝撃的だが、誰も直視していない。
仮に輸入が途絶えた条件下でも、国内需要よりも田畑が生む供給の方が多いということだ。
日本の田畑が本当の意味で余る
これを『日本のコメ問題』(小川真如著/中公新書)では”転換点P”と呼んでいる。

単純な話なだけに、この算数から逃れるのはなかなか大変だ。
いちおう、いくつか方法はあるが、いずれにしても必要なのは需要喚起で、インパクトが圧倒的に大きいのは輸出、である。

「異次元の輸出促進」。
少子化対策も異次元でやってほしいが、農業界の異次元政策はこれしかない。
現に、果実やサツマイモの輸出は飛躍的に伸びている。畜産品、日本酒のポテンシャルも大きい。
グルテンフリーで低カロリーなので、欧州ではパスタ代わりに日本のコンニャクが使われている。

輸出については、拙記事(マイナビ農業)も参照してもらえたらと思う。
『輸出目標3000億円。ドン・キホーテが仕掛ける、JAPANブランドの大攻勢!【大企業は農業を変えるか?第4回】』 https://agri.mynavi.jp/2022_03_18_186868/

需要を喚起する方向が結果的に、中山間地域や都市地域を含む農業全体を支えることになるだろう。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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