社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
国立市に、大正15年の建物が帰ってきます。
三角形の屋根や入口のアーチが特徴的な、国立駅舎がそれです。
大正15年と言うと、そんなに古くないじゃん、というツッコミもあるかもしれません。
(たとえばお隣府中市では国衙跡地を整備中で、こちらは奈良時代。まさに府中とは、府の真ん中の意。)
しかし、国立市の北部地区は、そもそもが大正時代に開発された地域です。
つまりそれより古い建物はない。
街のアイデンティティとして、一番古くシンボルとなる建物を維持しようとするのは、私たち”まちづくらー”としては至極当然のことと言えるでしょう。
先日、国立市主催のシンポジウムで、東大特任教授の藤森照信氏が言うことには、「東京駅もさきごろ復元された。これも大正時代の建物。つまり中央線は東京から国立へ、歴史ある大正時代の駅舎をつなぐ路線なのだ」と。
あの東京駅と同列とはおこがましいかもしれませんが、古い駅舎は東京にはじつに少ないのです。
ところで、この国立駅舎を復元するのに、なるべく税金を使いたくないということで市役所が始めたのが「古本募金」です。
え、古本……?
ダサい……。
当時、思わずチラシを見返してしまいました。
「古本で駅舎が建つかよ。それにしても古本でお金を集めるとはいかにも田舎くさいな」と思っておりました。
比べてみてくださいよ。
東京駅の復元がどのようになされたのかご存知でしょうか?
東京駅は「クウチュウケン」を売却して、その資金を得ているのです。
クウチュウケン……って、なんかカッコいい!!
私もちょうど不動産会社にいたのでよく覚えていますが、歴史的建造物の上空、余った容積率を別の建物に移す、これが空中権の移転ないし売却です。
ちなみに、東京駅の場合、売却金額は500億円とのことです。
参考 https://matome.naver.jp/odai/2134916143073298101
すごいスキームを思いつくものですね。
もっとも、容積率というのは役人が鉛筆なめなめ作ったものなのに(いや、実際には真剣に考えて作っているものでしょう)、それを周囲の地域に売却できるっていうのは、もともとの数字ってなんなん?っていう違和感は禁じえません。
つまりは、空中権を売却しないで駅舎を取り壊し、高層ビルを建てる選択肢もあったということになりますから。復元を決めたJR東日本には賛辞を送りたいですが、そもそもの行政の規制とはいったい……?
そうしたところで、です。
先日、国立の駅舎復元のための寄付について、国立市役所の職員Kさんがこう言いってました。
「大きな金額の寄付ももちろんありがたい。しかし、小さな子供が、なけなしのお小遣いを寄付してくれたとしたら。その価値はどっちが大きいかは一概にはいえないと思う。」
恥ずかしながら、衝撃を受けましたね。
おっしゃる通りじゃないですか。
つまりは、です。
たとえば、子どもがいらなくなった絵本を売却して、そのお金を駅舎復元に投じることができる。
それが古本募金という仕組み、だったわけですね!
国立駅舎の復元にあたっては、実際のところは古本以外の寄付が大きくて、でもいろいろな寄付がみんな市井からのもので、2億円弱が積みあがって現在に至っています。
いやいや、そうなってみたならば、「空中権(鉛筆)」と「古本」と、どっちが粋かって、圧勝じゃないですか。
なぜ粋かって、どっちが市民にとって愛着が湧く方法かってことです。
都心は都心で頑張っていただかないといけない。インバウンドを獲得する意味でも、東京駅の歴史的な駅舎は必要なものです。
それぞれのスキームで集めた金額は、500億円対2億円で250倍。これは認めざるをえない差です。
しかし、私たちのような田舎の街がそれを真似しようと思ってもできない。対抗心を燃やしても仕方ない。(勝手に対抗心を燃やしているのはお前だろ、と突っ込まれそうですが。)
田舎はどのように生き残っていくべきなのか。
国立駅の復元はそれを示してくれているような気がします。
田舎には田舎のやり方がある!
そうそう、古本募金はまだ継続中です、ぜひ。……アフィリエイトじゃないですよ笑。
https://www.furuhon-bokin.jp/akaisankaku/
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。