株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2022.05.19

日本で地域活性化が重要な、もうひとつの理由

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

私たちエマリコくにたちも、地域活性化を目指す数多ある企業のひとつです。
いま、あらゆる地方で地域活性化を掲げた企業が続々と立ち上がっています。

ところで、経済学には、「生産性の低い業種から、生産性の高い業種へ労働力を移動させること」がGDP、国の経済のために大事だという考え方があります。
これはたとえば、コロナ禍での雇用調整助成金の特例に関して、これを早くやめるための論理として使われています。
もちろん、スムーズに労働力を移動させることができれば、経済的にプラスでしょう。
業種を変わるには能力や適性というハードルがありますが、この方面の論者は、国はそのための再就職支援や訓練をしっかりやるべきだと説きます。

けれど、百歩譲ってその訓練がうまくいくとして、それでもこの論理が無視していることがあります。
それは地理的な移動、です。
仮に新しい能力を身に付けることができたとしても、地理的な移動というもうひとつのハードルがあるのです。
遠くに生産性の高い仕事があるからと言って人々は引っ越しをするのか、ということです。

人々はそんな簡単に地理的な移動をしません。
それに、移動をしたとしても、結局のところ大都市圏に移動する人の割合が多くなり、「一極集中」と批判される状況を加速させるだけになってしまいます。事実、近年は「テレワークが普及した」などと言われていますが、東京圏1都3県は相変わらずの転入超過です。

話を戻して、人々はなぜ簡単に引っ越しををしないのかを考えてみましょう。
その理由は、「地域に愛着があるから」ということではありません。もちろん、そういう人たちも一定数いると思いますが。

一番大きな理由は家族でしょう。
本人が新しい職業にチャレンジしたいと思い、そのために引っ越しが必要でも、家族にもそれを強いることができるのか、という問題があります。親の介護や教育環境といった理由もあるでしょう。
また、今は共働きが前提です。
配偶者が失業したからといって、自分も今の仕事を放棄して、新天地で仕事を探すのか?マクロ経済的にはそれが正解でも、かなりリスキーな行動です。
配偶者の収入がなくなったところで、自分も一時的とはいえ失職し、引っ越し費用も必要になるのですから。

まして、ローンが残る住宅を持っていたら、経済的にも心理的にも移動するのは簡単ではないでしょう。

最後に、一般的に言って、新しい場所に移ることはリスキーに感じられる、ということもあります。
よほどの不満がいま住んでいる場所にあれば別ですが、日本はどこでもかなり住みやすいです。で、友好関係もあれば、好きなお店のひとつやふたつある。
一方で遠隔地の情報は限られていますから、「いい仕事があるらしいぞ」くらいの情報ではおいそれと移ることはできないのです。

そのように考えていくと、地理的な労働力の移動が起きないという理由というのは山のようにあるのです。
観光業とその関連産業が大きなウェイトを占めている地域において、コロナ禍からの回復を待たずに雇用調整助成金を絞るということが、かなり危ないことだということが分かるでしょう。

とまれ、マクロ経済学が説く「より生産性の高い業種への移動」は、ないよりあった方がいいわけですが、机上の理論ほどにはうまくいかないのです。起きたとしても大都市圏への移動になってしまう。

でも、地域的な移動を伴わない経済の活性化方法はあります。
それは何かといえば、言うまでもなく、“地域活性化”だということになります。

生産性という言葉を使うなら、地域活性化とは、「同じ地域内のより生産性の高い分野へ労働力が移動する」もしくは、「その地域の生産性の低い分野をより高いものに変化させる」ということです。

つまり、それぞれの地域が、それぞれに生産性を上げる。

日本全体の経済を良くする、ほとんど唯一の解と言ってもいいわけです。

地域活性化を目指す企業がたくさん生まれているのは、そういう背景があるのだと、私は理解しています。
エマリコくにたちも、そうした多くの企業の一角として、しっかり自分たちが根を張っている地域に貢献していきたいと思います。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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