社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
先日、ソーシャル・ベンチャーとベンチャーの違いについて、Facebookに書いたところ反響が大きかったです。
今日はそのことをあらためて。
ソーシャル・ベンチャーは社会課題の解決を目的として立ち上げられるので、それを最重要ミッションとして、人材や資金をはじめとするリソースが集められます。
なので、ふつうのベンチャーは、試行錯誤しながら方針を変えていくのが普通で、それを「事業のピボット」と言ったりするわけですが、ソーシャル・ベンチャーはそういうわけにはいきません。
そういう足かせみたいなものをしています。
ちなみに、エマリコくにたちの創業ミッションは、「都市農業を次世代につなぐこと」と「楽しい食卓をサポートすること」のふたつです。
一方で、足かせも悪いことばかりではないです。ミッションに立脚しているからこそ、覚悟の見せ方次第で、地域のみなさんからの支援をたくさんいただくことができるし、有為の人材も応募してきてくれたりします。
ところで、ミッションはあくまで存立理由であり、ミッションだけでは持続可能にはならない。
利益も大事です。
活動を発展させたり、有為の人材にきちんと給料を払っていくにはお金が必要です。
で、お金も儲けなくてはいけないし(あるいは十分な寄付を集めなくてはいけないし)、一方でミッションもしっかりやっていかなくてはいけないという状況になる。
このことを、私は二方面作戦と呼んでいるのですが、これに多くのソーシャル・ベンチャーやNPOが直面しています。
二方面作戦になると、リソースを2つに分けなくてはいけないので大変です。とくにマネジメントがなかなか複雑になります。
なので、二方面作戦を脱して一石二鳥のやり方を見出す、こういう考え方が大事だと思います。
つまり、公益(社会課題の解決)と団体の利益、このふたつを同時に解決する。
そういうビジネスモデルのことを、『公利一致のビジネスモデル』と私は呼んでいます。
(ちなみに、この概念は学生の時に商店街活性化に携わっていて生み出しました。)
ビジネスの要諦とは、好循環をいかにして生むか、と言っても過言ではないです。
好循環が生まれれれば、追い風を受けるようにどんどん前に進んでいけるけれども、そうでなければつねにオールを漕がなくてはいけません。
利益を生むと、それを活動の維持や発展のために使えますから好循環です。ビジネスというのはそういうものであり、だからこそ資本主義は良くも悪くも発展してきたわけですね。
ソーシャル・ビジネスとは、資本主義の土俵のうえで世の中をよりよくしていく活動です。
であれば、ミッションを遂行することが利益につながるモデルを作り好循環を生む。それがキモとなります。
ミッションを遂行する⇒利益を生む⇒その利益をミッション遂行に充てる⇒利益を生む
ということです。
このときに考えるべきは、ミッションそのものがどうしたら差別化につながるか?です。
ミッションの大事さを訴えてファンを増やす、というのはこの際、考えてはいけません。いわゆるエシカル消費に期待する考え方ですが、冷徹に考えれば、そんなマーケットはさして大きくありません。
そうではなく、一般の人が受け入れてくれるポイントにおいて、いかに差別化するか。
たとえば、エマリコくにたちが最初に注目したのは鮮度、です。
都市農業は消費地に近い。というか、すぐ隣だ。
鮮度はぜったいに負けない。だから、これを差別化ポイントとして押し出そう、ということでやってきました。
最近では、都市農家の多様なキャラクターも面白いと思っていますし、実は栽培技術も高いことも分かりました。そして、田畑のコミュニティを生む機能も注目して体験事業を強化しています。
こうしたミッションのなかに隠れている特徴を、資本主義のなかでも通用する差別化ポイントとして尖らせる。
それが公利一致のビジネスモデルの基本となります。
公利一致のビジネスモデルができあがると、スタッフの考え方がシンプルになります。
その差別化ポイントを意識するだけで、利益(組織の発展)とミッション遂行とを同時に達成していけるからです。
利益は自分の昇給や賞与にもつながってきますね。きわめてシンプルです。
組織運営のシンプルさ。これも好循環と同じくらい、ビジネスを推進していくときには大事です。
というわけで、ソーシャル・ベンチャーは資本主義の荒波のなかで、なかなかの足かせを泳いでいるわけですが、その足かせを足かせのままにせず、強みに転換する。まずはそのことに集中する。
ソーシャル・ベンチャーは、それができたなら大いに光明が見えてくる、というのが私の考えです。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。