株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2019.04.24

会社はだれのものか~コミュニティビジネスの現場から

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

私たち食品小売業には、ヤオコーという素晴らしい目標がいる。
食品小売業にして、売上高営業利益率が4%もある。これは物凄い数字だ。大手でも1%程度のところはざらである。

先日の日経ビジネスのコラムで、ヤオコー会長の川野幸夫氏はこう断言している。
『「会社はだれのものか」と問われれば、私は株主だけでなく、お客様や従業員、取引先などすべてを含めたステークホルダーのものだと答えたい。』

ちなみに、ヤオコーは全店を休業にして、社内運動会をやることでも有名である。

取引先までも会社を有する一員と考えることができるか。ここまで考えている企業は(経営理念に文字としては掲げていたとしても)、なかなかない。

川野氏は、新札の肖像に渋沢栄一が選ばれたことに触れ、「令和という時代は、彼が唱えた、道徳の上に成り立つ経営が一層重要になる」と文章を結んでいる。

さて、「会社はだれのものか」問題を考える材料となる、時事的なビジネスケースがコンビニの24時間営業である。
24時間営業そのものの商売上の是非は脇におくとして、フランチャイジーとフランチャイザーが対立している。

もともとセブンイレブンは、「零細小売業を活性化する」という理念のもとに生まれたという。で、それを実現してきた。そうした過去の経緯を考えると、このように世論を巻き込むようなコンフリクトが起きること自体に、違和感を覚える。

がんじがらめの契約がフランチャイジーの体力を奪っているけども、契約そのものを変更しようとはしないセブンイレブン本部は、総体として悪者に見える。けども、きっと一人一人の社員は道徳的に悪人ということはないだろう。

こうした対立がどこに起因するかというと、複数ある要因のひとつに、セブン&アイが上場企業だということがあるだろう。
上場企業はどうしても、株価や帳簿上の価値をより高めようという力学が働く。経営者を意識的に、無意識的に、縛っていく。言いかえれば、「零細小売業を支える」という理念がマーケットで評価されることはないのだ。

もっとも、ヤオコーも上場企業であるから、上場しているイコール、道徳的経営ができない、ということではないのだろう。ただし、ヤオコーの株式は、少なくとも3割以上を経営者一族や関連会社が所有しているので、純粋な上場会社とはいえないかもしれない。

話はかわって、わがエマリコくにたちは、複数の株主によって支えられている企業である。
株主になっていただくときに必ず伝えていることがあって、それは「エマリコくにたちは上場を目指していないので、売却益は望めません」ということである。
株主のみなさんは、やっぱりエマリコの持っている理念、これに共感して出資していただいている。本当に、ありがとうございます。

もし上場するということになれば、それは株主を選べないということであり(外国のファンドが大株主になっても文句は言えない)、そうなると、いつかエマリコが目指している【東京の農業を活性化していく】という方向性と帳簿上の企業価値が対立を生むことになるだろう。
だから起業するときに、副社長の渋谷と相談して「上場は目指さない」と決めた。

エマリコくにたちはだれのものか。そう問われれば、こう答えたい。
「この会社は地域が所有している。」

そういう意味で、エマリコは自治体と似ていると思っている。
自治体よりは予算が少ないけど、もっと自由に動けて、生き生きとしている(自治体職員の方、ごめんなさい笑)、というイメージだ。

しかし、地域を盛り上げるという理念と上場が相いれないとなったときに、現実問題として困るのは、資本力である。上場という出口がないとベンチャーキャピタルや個人投資家には出資してもらえないわけで、資金調達方法が限られる。(ということで、当社は2年連続でクラウドファンディングを実施している。)

将来的なひとつのアイディアとして、コミュニティビジネスへの出資を仲介する、疑似的な株式市場を作ることができないだろうか。ものすごいざっくりとしたアイディアだが。
地域の金融機関(信用金庫など)が事務局となるのがいいと思う。
企業理念を優先することが前提としたうえで、出資をしてくれる人を募ることができる場だ。

配当で還元する予定の企業も、配当も自社株買いもをするつもりはありませんと宣言している企業も、それを公表したうえで出資者を募ることができる。出資者がきちんとしている人かどうか(理念共感があるか)は、ある程度、地域金融機関が担保する。
巷のクラウドファンディングよりも、大きな金額で、また長期的な視野で出資をしてもらうというイメージである。出資の相続といった長期的なことを考えると、何かしらのプラットホームがほしい。

そもそも信用金庫という存在そのものが、ばかでかいコミュニティビジネスだと私は考えている。そうして、信用金庫は地域の出資者で成り立っていて(ちゃんと配当はある)、都市銀行と違い上場はしていない。上場をしていないからこそ、地域の将来を考えるという力学がきちんと働く。

信用金庫というモデルを見ていると、出資者をものすごい数集めて大きなビジネスにすることは、不可能なことではない。簡単じゃないけど。
簡単じゃないけど、令和時代にはもっとローカルの価値に注目が集まるようになって、何かしらのプラットホームができれば超えられるハードルのように思う。

非上場による理念保全と資金調達力の矛盾を、どう超えていくか。
コミュニティビジネスの成長性はここにかかっていると思う。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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