株式会社エマリコくにたち

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社長のBLOG

2025.11.13

ファクトをファクトとして認める高難易度のゲーム

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

僕の座右の書に『よき経営者の姿』(伊丹敬之著)があります。

タイトルどおり経営者について書かれたこの本は、「顔つき」という章ではじまります。
学問的な論文とはいえないですけれど、よい経営者には共通の顔つきがある、と伊丹先生は言い切ります。

その顔つきの共通点とは、
1 深い素朴さ
2 柔らかい強さ
3 大きな透明感
です。

そして、僕自身、経営する年数が長くなるにつれて、これらの要素が経営者には本当に重要だと強く思えてきました。(僕がこういう顔つきになれたという意味ではありません。むしろ逆。)

なぜかといえば、十数年の会社経営という経験を経て、経営とは、「ファクトをファクトとして認めるゲームである」と強く感じるからです。

ファクトをファクトとして認めることは、人間にはじつに難しいのです。プレッシャーがかかっていればなおさらです。

僕は優柔不断ではないという意味での決断力には自信があるほうなんですが、でも、正しい方向に決断しなければ意味がないわけです。そのためには、正しい状況判断が前提になります。

正確な状況を把握するために、外部環境についてはいろいろな記事やら動画やらをチェックしていますし、内部環境についてはなるべく数字にして(会計を工夫して)います。けれど、それでも物事を歪んで見てしまいます。

人間は見たいものしか見ない生き物。これに尽きます。

「二ーバーの祈り」という有名な格言があって、これを好む人が多いけれど、僕はあまりしっくりこないです。

「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。」

前段で表現されている、変えることのできないものを受け入れる力が重要であるという点に共感する人は多いです。それはそうだと僕も思います。
変えるべきものを変える勇気も、まあ、そこそこには持っているつもりです。

でも、問題は最後のところです。
変えられないものと変えるべきものを区別する賢さが、すべての前提として存在するわけです。
そんな賢さが、人間に備わっているだろうか?
その意味で、この言葉は祈りに過ぎず、格言とは言えないと僕は思っています。

従業員教育ひとつをとっても、従業員のスキルやマインドというものは、どこまでが変えられるもので、どこからが変えられないものでしょうか?
じつに難しいです。

マンガやドラマで、リーダーや仲間の言動がきっかけでダメな人物が突然成長することがありますが、そういうことは現実にはあまり起きません。ですが、100%起きないと言い切ることもできません。
変えられないものと変えるべきものを区別するのは、ほんとうに難しいのです。まして、心理的にプレッシャーがかかる会社経営においては。

たとえば、野球チームに期待の選手がいたとします。だが、成績が振るわない。
彼が成長しないならば、「この選手にはポテンシャルがある」いう過去の発言を過ちと認めなくてはいけないかもしれません。それは心理的に辛いことです。
また、成長するのならば、成績の低い選手を起用し続けるという当面のデメリットを受け入れ、他の選手の不満を覚悟しなくてはなりません。それも心理的に辛いことです。

そうなってくると、状況判断には感情によるバイアスがかかってしまいます。
これは一例にすぎず、状況判断には多種多様な感情がつきまといます。

業績が悪いことを認めたくない。
逆に、業績が良いとそれを自分のおかげだと思いたい(外部環境が良いだけかもしれないのに)。

自分が開発した商品に愛着があって、捨てられない。
逆に、ドラスティックなことをやる自分に酔ってしまって、必要な商品を捨ててしまう。

短期的なことが気になって仕方がなくて、長期的な視野を失う。
逆に、目の前のピンチから目を背けて、将来の構想ばかり考えている。

賢さとはこういう決断を誤らないことです。
そして、会社の経営をしているとなれば、決断すべき事がらは雨あられと降ってくるわけです。
これは、次々と、しかし正しく状況判断をするというゲームをプレイしているかのようです。
そして、さらに突っ込んでいえば、このゲームは「感情バイアスを避け続けるゲーム」と言えるわけです。

こうしたひとつひとつの状況判断を誤らないためには、悟りと言ったら大げさかもしれないですが、冒頭にあげた、「素朴さ」、「強さ」、「透明であること」などが必要になるのではないでしょうか。

ですが、いきなりこれらの高尚な性質を獲得はできませんから、毎日、感情バイアスがないだろうかどうだろうか、と考えながら、ヒリヒリと経営判断をしている日々です。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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