株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2019.06.23

温度のある空間、というポジショニング

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

先日のブログで、「リテールが好きだ!」ということを書きました。
リテール、じつに面白い。
その続きを書こうと思います、お付き合いください。

「東京農村」(赤坂見附)の1周年記念のイベントがあり、その一環で、「ポケットマルシェ」代表の高橋博之さんと対談させてもらう機会がありました。
『カンブリア宮殿』にも出演して熱く語っていた高橋さんが東京農村で訴えることには、「ごにょごにょした関係が大事。」
いわく、「ごにょごにょ」の対義語は「つるつる」で、都会の人と人との関係性はつるつるしているし、現代の食とのかかわり方も(ファーストフードなどを典型として)つるつるしている。でも、これからの時代、ごにょごにょをいかに残し、いかに生かしていくのか、これが大事になるということでした。

当社がおよそ100軒の農家さんとのやり取りを、LINEだったり固定電話だったり、実に様々な方法を駆使しているのだと伝えると、その面倒な関係がまさに「ごにょごにょ」なのだと指摘してもらいました。
つまり非効率。だけど人間的。

日々の農家さんとのやり取りを、例えば「毎週何曜日までに何々というアプリで必ず連絡する」というルールにすると、ちょっと複雑性は薄れ、効率性は高まります。しかし、こうしたことの繰り返しは、収益性を高める一方で、だんだんと「つるつる」になってくるわけです。
エマリコも取引農家が増えてきたので、日々の発注のような場面では、ある程度システム投資が必要かなと思ってはいます。が、つるつるになりすぎないように気を付けなくてはいけない。

一方で、消費者のみなさんを相手にする店舗現場では、まさに複雑性や対人・対話をもっと大事にしていきたいと考えています。高橋さん流に言うと「ごにょごにょした店舗」ということになるんだと思いますが、その対談では、私は「温度のある空間」という表現をさせてもらいました。

これから、Amazonも青果領域にどんどん進出してくるでしょうし、スーパーなどチェーン小売店のレジの無人化はまちがいなく広がる。レトルト食品や冷凍食品、栄養補助食品の技術もどんどん高まっている。
そうした現代流の消費生活は、もちろん便利で悪いことではまったくないです。かくいう私もめっちゃ使いますし。

でも、たとえば、「しゅんかしゅんか」で店頭のスタッフが、お客様が連れて来た犬(散歩途中でお買い物に寄ってくれるんですね)と仲良くなって可愛がっているのを見ていたりすると、こういう空間ってやっぱいいんじゃない?と思うわけです。あるいは、「しゅんかしゅんか」は、地元日野の「三河屋」の手作り豆腐を毎朝取りに行ってそれを売っているんだけど、そういう地元の小さな小さな食品工場もあっていいんじゃない?とも思う。
本当にぜんぶAmazon化しちゃうの?本当に?
(この疑問には、社会はAmazon化すべきかどうか、というエシカルな視点と、Amazon化がどれだけ進むかという、マーケティング分析的な視点とが混在していますが。)

これまで、温度や味わいのある空間というのは昔ながらの商店の役割だったけど、これからの時代だってきっと必要とするるのが人間というものだと私は信じています。
言いかえると、買い物がただの家事ではなく、ちょっとした趣味とか余暇として考える人たちも確実にいるし、もしかしたら増えるのではないか。もちろん消費者全員がそうだとは思わないけど。
だから、ポジショニングとしては、これは利便性を追求する大手流通・大手メーカーに対する逆張り戦略ということになるけど、地域密着でやっている以上、空間の温度こそが強みであって然るべきだろうと。そう思います。

で、リテールが好きだって前に書きましたが、リテールならなんでもいいんじゃなくて、愛を配るリテールが好きなんですね。愛って言葉、ちょっと唐突に使いましたけど。思い入れと言ってもいいです。そういった、ごにょごにょしたものが空間の温度を生むんです。

そして私自身に対して強調しなくてはならないことは、空間の温度を誰が生むのかって、これは現場のメンバーが生むのだということ。
上意下達の組織ではそこに温度は生じない。だからエマリコの経営者の役割は、自由にできる環境を作ること、もっといえば愛を持ちながら働ける環境を作ること。
それが第1の役割で、そうはいっても効率性や組織の規律も大事だから、それをどうミックスしていくのか、最適な組み合わせはなにかを考えるのが第2の役割。

温度のある店づくり。愛を配るリテール。そのための自由な環境。
そんな感じで、エマリコはしばらく進んでいこうかなと思っています。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

Photo

株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

PageTop