社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
再びの緊急事態宣言ということで、知り合いのラーメン屋さんに、営業続けるんですか?、と聞いてみました。そのラーメン屋さんはお酒を出していないので、休業要請がかかっているわけではありません。
でも、
「お肉屋さんが休まないかぎりは……」
という答えでした。
お肉屋さんが休んでしまうと、自慢のスープやチャーシューが作れない。そうなると休業するしかないということでした。
お肉屋さんが休んでしまうとすれば、それは多くの卸先のお店が休業するからでしょう。
新型コロナで大変な業種は多いですが、飲食店向けに食材を卸している企業こそ、忘れられがちですが、典型的なものです。
幸いなことに、エマリコくにたちは、飲食店向けの卸しが多くありません。卸し事業はやっていますが、スーパーマーケットがメインです。
それでも、いくつかのお店に卸売りをしていたのですが、注文がストップしたり、卸先のお店が廃業の危機にあったりという状況。もしも手広くやっていたら、と想像するとゾッとします。
エマリコくにたちは創業以来、卸売りしてほしいという問い合わせを飲食店さんから多数いただいてきました。(ここでは卸売り、イコール配送有り、という意味で使っています。直売所店頭で買っていただいてるお店はたくさんあります。ご愛顧ありがとうございます!)
都心のお店からも、多摩エリアのお店からも相談をいただきます。本当にありがたいことなのですが、多くの場合でお断りしているのが現状です。
というのも、野菜のような単価の低い商品で配送を成り立たせるのは、至難だからです。
単価が低いうえに、季節によっては品目が少なくなるのが地元野菜という商材です。
なので、この配送の固定費をまかなうには、かなりの限定されたエリアに相当に集積を持つ必要があります。ただ、集積をすればするほど、お付き合いする店舗数が多くなるので、その受注と農家への発注、そして代金回収をするだけでも事務コストが多くなってしまいます。
飲食店は固定費が多くかかる”固定費ビジネス”だと言われていて、新型コロナの時短協力金の計算にも「固定費をまかなえるように」(田村厚労大臣)しているということなのですが、卸売りを含む物流ビジネスは、飲食店以上に固定費型のビジネスです。
(3台しか車を持っていないエマリコくにたちでさえ、保有している車=固定費がかかる=をいかに効率的に休みなく動かすかは、つねに懸案です。)
ある地域に配送網を持つということは、想像以上に固定的なコストがかかります。
端的に言うと、配送拠点を出発するときに車の荷台が満載の状態でなければ、黒字にはなりません。
さらにいえば、卸売り業はインフラ的ビジネスでもある、と言えます。
飲食店も私自身は街のインフラだと思ってはいるのですが、卸売りの意味するインフラは重みが違います。「それがなくなると、マイナスの波及効果がすごい」ということです。
たとえば、先のラーメン屋さんのように、お酒提供も時短要請も本来関係ない飲食店もあります。けれども、サプライチェーンの上で不可欠なお肉業者さんが止まってしまうとお店を開けないわけです。
卸売りのインフラとはそういう意味です。
ですから、インフラである卸売業者には、1軒でも注文があれば届ける、そういう姿勢が必要とされます。
軽々に参入するのははばかられる理由です。
ところが、この緊急事態宣言。
先に述べたように、配送網を持つ商売は固定費が高く、エリア集積が必要という前提のうえに成り立っています。
それにも関わらず、お店がどんどん休業や時短をしている……。
跡形もないエリア集積。
まさに悲劇的な状態。
それでも赤字だろうが配送網を維持し、1店舗からでも注文があれば届ける、その矜持を持って働かれている企業さんも多いのではないかと思います。実際、配送を間引きこそすれ、休みますというお知らせが来ることは稀です。
もちろん、ラーメン屋さんがお付き合いしているお肉屋さんのように、配送を休んでしまったとしても、それはやむを得ないことだと思います。
そうした卸売りの会社に、支援の手がまったく届いていないのが、現在の政策なのです。
票にならないところは切り捨てるということなのでしょうが、倫理も正義もそこにないことは明らかです。
先に述べたように、エマリコくにたちは飲食店向け卸の売上は少ないので、これは自社のためのポジショントークでもなんでもなく。
ひとりの街を思う人間として、このありえない政策に否と表明するものです。
とりあえず、近所の酒屋さんに行って、家飲みを励行したいと思います。(街の酒屋さんの売上は、意外と卸売り比率が高いことが多いんです。)
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。