株式会社エマリコくにたち

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社長のBLOG

2024.07.30

新しい床は次世代への遺産にならない

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

こんど9月28日(土)に、『八ヶ岳南麓フェア』を多摩市の永山駅前でやることになりました。

これは、多摩市と信州の富士見町が友好交流都市であることから、富士見町とその周辺の八ヶ岳南麓観光圏の原村や北杜市も交えて特産品を紹介するお祭りとなります。
(当社は多摩市と富士見町の共同アンテナショップである「Ponte」を運営しています。)

このお祭りを行う永山は、まさに多摩ニュータウンのど真ん中といった場所にあります。
(写真)永山のご当地キャラクター「永どん」。どんくりの木の精です。永どんLINEスタンプも好評発売中だどん!詳しくはコチラ

Ponteがある「グリナード永山」は、いわゆる駅前にあるビル型の商業施設で、その後背に複数の大きな団地が広がっています。
丘陵地の高低差を利用した歩車分離が徹底されていて、幹線道路の横断歩道を渡らずにそれぞれの団地に行くことができる設計なのが面白いです。

でもって、ニュータウンのなかで商売をしているので、高齢化の進むニュータウンの未来とは無縁ではありません。無縁どころか、そのマーケットの変化には大きな影響を受けるでしょう。

そういうなかで、先日、『NHKスペシャル』で、神戸市(やはり大規模ニュータウンを抱えている)のまちづくりの考え方が紹介されていて、すごく興味深かった。
要点は以下のとおりです。

●人口の奪い合いは、日本のなかのゼロサムゲームである。
●したがって、床を増やして人口は増やす戦略はとらない。
●三宮などの繁華街方面のタワマンは禁止!
(海側の繁華街は人口増よりも観光・ビジネスでの流入を重視するゾーニング。)
●すでにある丘陵地のニュータウンを住みよい街へと再生することに注力。
●中心地の高層化による再開発(従来型再開発)ではなく、「面でみた再開発」という考え方をとる。

この『NHKスペシャル』を通して強調されていたことは、やたら床を増やさない、ということです。

補足すると、「床」というのは、住宅でも商業施設でもオフィスビルでも、とにかく建物のことです。
まちづくりには、農地や山林を転用する水平方向の開発と、容積率を緩和して高層化する垂直方向の開発があります。
建物の数ではなく「床」と言い方をするのは、「高層化すると床が増える」などと言うので、高層化も意識しているからです。

神戸市長も言っていたのですが、「短期的に人口を増やすことは、長期のビジョンとはいえない」

なぜか。

「床」は維持管理するのにコストがかかるからです。
農地を転用した住宅地であっても、高層の分譲マンションであってもそれは同じです。

そして、将来、人が住まなくなった床は、誰かがそのコストを担わなくてはいけません。
多くの場合は自治体、ひいては納税者です。

もっと言えば、数十年後の納税者。つまり私たちの子ども世代です。

したがって、人口減少社会においては、無計画に人口増を目指すのはサステナブルではない可能性が高い。
神戸市は、ニュータウンという既にある資産をある意味リサイクルすることで、床を増やさずに人口は維持しようとしているわけです。

地方からの流入人口が多い東京都といえど、空き家は増加しています。
なぜなら、どんどん床を増やしているからです。
単純な算数ですね。

これは耳の痛い話です。
私自身、不動産デベロッパー出身ですが、不動産業界や建設業界からすれば、ケースバイケースではありますが、総体的には今までと同じような規模での開発はいらない、という話なのですから。

しかし、方向性は変えていかなくてはいけません。いますぐに。

旧来の都市計画を変える場合には、痛みを伴います。
土地を持っている人からすれば、損する人も出てきてしまいます。
けれども、長期ビジョンに立てば、これは避けられない。
だからこそ、政治が決めないといけません。

日本人は、政治とは幸福の分配だ、と思っている節があります。もちろんそれも大事です。
しかし、痛みの分配こそが政治の本分です。
優秀な国家官僚や自治体職員には幸福の分配はできても、痛みの分配はできないからです。

人口減少下、どう考えても、パラダイムシフトが必要です。
これは20年前、私が新卒でデベロッパーに入ったときから言われていたことだと思うのですが。

新しい床は、次の世代への遺産にはならないのです。

この課題に、早急に取り組むべきではないでしょうか?

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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