社長のBLOG
背景 東京農業を応援いただいている皆様
うちの直売所で販売している納豆は、青梅の菅谷食品さんから仕入れています。
伝統的なせいろ蒸し製法を採用していて自然なうまみがあり、とても人気があります。
https://www.tamatebakonet.jp/interview/detail/id=2902
ところで、みなさんは納豆にはカラシを混ぜて食べますか?
どのくらいの比率かわからないですけど、カラシは入れないって人も多いのではないでしょうか。
私も私の妻も、入れません。
ちなみに、菅谷食品さんの記事を見直していていま知ったのですが、同社の製品「つるのこ納豆」は大豆のうまみが強いので、カラシどころか、タレもなしで塩をかけて酒のつまみにする人もいるのだそうです。こんど、ぜひやってみようと思います。
というように、必ずしも必要ないにもかかわらず、たいていの納豆製品には小さなタレとカラシが付属しています。
スーパーでも、まれに付いていないのがありますが、基本的にはタレとカラシ付きです。
だから、うちの家庭でも、納豆を食べるごとにカラシが溜まっていく。なかなかの在庫量……笑。
これって、ちょっともったいないですよね?
であれば、カラシ付きが150円なら、カラシ無し145円という商品も作って、2種類売ったらどうでしょうか。
すごくよい案に思えますけど、そうはならないのですね。
そこに流通の奥深さというものがあるのです。
納豆の付属のカラシで、ちょっと大げさでしょうか?
カラシ付きとカラシ無しなら、カラシを付けない方がコストが低いように思えます。だから、5円安いカラシ付きという商品があるのは妥当のような気も……?
原材料のコストという側面ではそうでしょう。
ところが、コスト全体に占める原材料のコストはごく一部です。工場段階での製造過程のコストもあるし、流通業者(当社もそのひとつ)でかかる流通過程のコストもあります。
1種類製造するのを2種類製造することにすれば、カラシを添付するかどうかの違いにすぎないんですが、製造過程のコスト(1単位あたり)は増えてしまうでしょう。おそらくカラシの原料にかかる金額以上に。
さらに流通過程のコストもそうです。
よく混同されるのですが、流通コストというものは、運送コストとは異なります。
運送コストは、Aという地点からBという地点へ物理的に商品を移動させることにかかるコストです。たとえば、納豆工場からしゅんかしゅんかの店頭まで、物理的に運ぶことです。
運送コストだけなら、納豆がカラシ付きとカラシ無しの2種類に増えてもあまり変わりません。
しかし、そのような運送コストは、流通にかかるコストの一部にすぎません。
流通の仕事というのは、「適時に」「適切な量を」届けるということです。
1種類が2種類になると、これがとたんに難易度があがり、ひいてはコスト高になります。
適時に、適切な量を届けるための一番簡単な方法は在庫を増やすことです。在庫がたくさんあれば、急なニーズにも対応できますね。しかし、在庫を増やすということは、それを廃棄するリスクがあがりますし(納豆のような生ものであればなおさら)、それを置く場所の家賃、さらに管理の手間もかかります。
なので、在庫を適度な量、つまり多すぎず少なすぎない状況にしておくことが流通の肝なのですが、これは商品が1種類だけの方がはるかに簡単です。(なぜなら大数の法則が働くからです。)
ということで、在庫コストだけ見ても、1種類を2種類にすると上昇してしまいます。
つまり、一部のお客様がカラシ付きを望んでいなかったとしても、すべての製品にカラシを付けた方が合理的だということになるのですね。
つきつめれば、カラシがいらない人もカラシが付いていることで得をしているわけです。
すべての商品にカラシを付けるなんてもったないない、というのはよいアイディアに見えて、ことはそう単純ではないのです。
そして、納豆のような基礎的な食品が安く手に入ることは、市民生活の豊かさに直結しますしね(ここ、けっこう大事です)。
なるべく安く届けることは、私たち流通業者の腕の見せ所。言い方を変えると、美味しい食品をお金持ちのだけのものにしないために、流通業者が頑張らないといけない。
ただ、一方で、頑張っている農家さんや食品メーカーさんの所得は高い方がいいわけですから、その矛盾をどうにか解決するというのが当社の役割だと思っています。
そのような流通の奥深さを、冷蔵庫の隅に溜まっていくカラシたちを見ながらしみじみと感じました笑。
ちなみに、我が家では、青菜の辛し合えを作るときに、このカラシたちにご登場願っています。なかなか美味しいですよ。
※流通コストと運送コストの違いについては、「マイナビ農業」の拙稿をぜひ参照してください。
『農産物の流通コストや中間マージンは高い!は本当か……?』
https://agri.mynavi.jp/2020_06_01_120024/
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。