社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
今日、新入社員のIさんの座学研修だったのだが、Iさんが聞くには「ブランディングってなんですか?」。
うーん。これは深い深い問いだ。
僕がつねづね思っていることは、食品というのは、あまりに日常的な商品で競合も多く、差別化が難しい。だから、ブランディングに頼りがちだ。じつに、安易に。
そうして、ものすごくしっかりとしたバックボーンがあってブランドになった商品もある一方、そうでないものもある。
ただ、この「中身のあるブランド」と「中身のないブランド」、一見して判別できるかと言われれば難しい。
話は変わるが、赤坂見附の新店「SCOP」(6月20日開業)の近くに、「俺のフレンチ」がある。業界の人でなくても知っているだろう、有名チェーンだ。
お店を見ていると、カップルが中心だが、幅広い年代の客層に支持されている。
原価の高い料理を、狭い席で提供し坪効率を最高にする。新しいビジネスモデルだ。
入り口脇には受賞歴もあるシェフの写真があり、いかにも自信に満ち溢れた表情で腕組みしている。だから「俺の」。
思いつきにくいが、見せつけられれば「なるほどな」というブランディングの好例である。
で、このようなうまいブランディングを見ていると、僕は取引農家さんの顔を思い浮かべる。
腕組みをしてもらって、畑をバックに、「ハイ、チーズ」。その写真を貼り出そう。
さしずめ「俺の野菜」、だ。
しかし、このアイディアにはどうもしっくりこない。そういうことをやる農家は、僕が知るかぎり、あまりいない。
流通業者としては、自信満々に腕組みした写真を撮って野菜が売れるのであれば、無理やりにでもそうすべきかもしれないけど、なんとなく気はすすまない。
なぜかと考えるに、太陽と雨と土の恵みから生まれている野菜には、「俺の」という所有の概念がなじまないのだ。
佐藤こうぞう氏が提唱している『イートグッド』は、「畑からパントリーへ、パントリーから食卓へ」つながる愛情やリスペクトを大切にするということで、僕も大事にしている考え方だ。そして、畑で収穫される前には太陽があり、雨があり、土がある。
そうしたものの連続のなかで、野菜という収穫物がある。収穫という行為はあくまでプロセスのひとつだ。
言いかえれば、『イートグッド』とは過程として食べ物を捉える、ということだ。食べ物はある流れのなかに存在する。そこに静的に存在しているのではない、と考える。
あえて表現すれば「みんなの野菜」。もしくは、「天の野菜」。
過程のなかから、あるいは自然の環境のなかから生まれるものだから、野菜を育てる農家さんには謙虚な方が多いのではないだろうか、とも思う。
これから「東京野菜」を押し出していくときに、どんなブランディングがありうるのかは当社にとって重要な課題だが、この謙虚さは大事にしたいなあ、となんとなく思う。
それが「中身のあるブランド」へとつながる気がするのである。
ま、こんな風な、役にも立たないことをゴチャゴチャ考えていないで、とりあえずどんどん売ればいいのだけども。
ということで、「東京野菜」、ただいま都心部への流通も拡大中です。とりあえず、どんどんと。
ご期待ください。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。