社長のBLOG
拝啓 東京農業を応援いただいている皆様
3月20日号の「週刊ダイヤモンド」の表紙はご覧になりましたか?
今回は『儲かる農業』特集です!って、毎年やっている特集なんですけどね。
で、今回はこの特集を批判していきたいと思います(そっちかい!笑)。
今回の記事の要旨はざっくり、
(1)農業バブル到来=大企業が続々出資や参入をしている
(2)JA全農への大企業包囲網ができている
(3)革新農家(農業生産法人)がどんどん成長している
(4)各地のJAが凋落しつつある、不祥事も続出
といったところです。
そもそも、煽り大好きなメディアの体質は私の大嫌いなところでして、ものごとを面白く伝えるのはジャーナリストの役割のひとつかもしれませんが、針小棒大に書いたり、節操のない書き方をしてはいけない。
たとえば、JAに不祥事続出と見出しで書いてありながら、本文ではほぼJA対馬のケースしか書いてない。続出の意味を思わず辞書で引いてしまいましたよ……。
さらに、この特集では、上記の通り「全農包囲網ができている」と表現しているわけですが、そのように書きながら、すぐその次のページで食品輸出を進めるドンキ・ホーテを褒めている。しかし、その文中にさらりと、ドンキ・ホーテと「全農」が提携関係にあって事業を進めていることを書いています。すごいさらりと(笑)。
あっれ、全農への包囲網とやらができているんじゃなかってでしたっけ?包囲網、どこ行った?
ドン・キホーテは包囲網の裏切り者ということかな。(もちろん、そんなものがそもそも虚構ということです。)
また、各地のJAのうち「96JAが赤字転落」と表紙にありますが、調査対象は504団体あって、JAは特殊な法人ではあるものの、一般的な会社では赤字の方が多いことを考えると、赤字が20%団体あるだけで煽りすぎ、と言わざるをえません。
というか、全部が黒字だったらむしろ変じゃないですかね。
ただ、このダイヤモンドのランキングは、使えるところもあって(そこは公正に)、組合員の支持率100%~80%のJAが全国にかなりあるということが調査データから分かります。
地域にひとつしかない替えのきかない団体が、ほぼ全員の組合員から支持されている。これはすごいことです。
尊敬すべきJAがたくさんあることがしれっと載っています(笑)。
さて、こちらの特集には「農業バブル到来」との見出しもあるのですが、それは真実かなという実感が私にもあります。この2~3年、かなり大企業から注目が集まってい感じがします。
一方で、この記事は、バブルと一方で書きながら、特集のタイトルが『儲かる農業』となっているところに、ものすごく危うさを感じざるをえません。まあ、まともな日本語の感覚でいえば、バブルというのは消える泡のことですから、ネガティブなわけで。
それなのに農業が儲かると大書するのは、さらにバブルを煽っているわけで、おいおい何がしたいのかな?と思います。
「メディアの品格」が問われますね。
(ダイヤモンドに品格を求めてないよ、という声もあるかもしれませんが。)
農業に新しい発想や投資が入ってくるのは大歓迎ですが、煽って、わざわざ火傷する人を増やすことはない。
サブタイトルは、「攻める企業・消えるJA」という対比表現になっているのですが、実際のところ、各地のJAは経営的に独立した団体です。
その意味では、人口減少が避けられないなか、経営難になるJAもあるでしょう。課題は多く、危機感は必要です。
しかし、それは全国の、それこそ信用金庫や地銀も同じことですし。
一方の「攻める企業」。
農業界にとって企業参入はすごく喜ばしいことなのですが、撤退する企業もまたかなり多いです。
「攻める企業・消えるJA」という表紙を見ると、農業界を知らない人は、あたかも企業がどんどん入ってきてJAを駆逐しているように捉えるかもしれませんね。
でも、実態は、地方経済が落ち込むのと一緒にJAの収益も落ちる、一方で参入する企業も増えているかもしれないけど、撤退する企業もまた多いというのが実際のところです。
あ、異業種参入が多産多死になるのは当然なので、農業参入がことさら難しいと主張するつもりはないです。念のため。
メディアに煽られず、冷静に事実を見極めていきましょう、ということを言いたいわけです。
さて、記事批判はこのくらいにして、記事のなかでとくに興味深いのは、私の出身企業である三井不動産が農場経営の子会社(三井不動産ワールドファーム)を設立したという部分です。
デベロッパーはこれまで農地を宅地に変えてきたわけですが、この新しい方向性、つまり農地が街づくりにとって大事だという思いが子会社設立という具体の形になったことは、数十年後に振り返ったときにエポック的なことなのかもしれません。
前々から、デベロッパーという業種は、農業と相性がよい面もあると思っています。
というのも、デベロッパーは商品(土地)を仕入れてから収益があがるまでのサイクルがとても長い商売です。
農業はスピード感というのは独特のものがありまして、これは農業界が遅れているということではなく、作物の育つサイクルはどうしようもないことに起因するものです。
1年に1回しか、PDCAが回らない宿命なのです。
その意味では、土地を仕入れてからそれが収益をあげるまでに時間のかかるデベロッパーの社風と、農業は悪くない組み合わせのように思います。
(逆に、意外と外食企業とかは相性がよくない気がします。メニュー開発のスピードと農業の改善スピードはあまりに違うので。)
記事のなかで、「10年は一緒に農業に取り組む」という三井不のコメントが掲載されています。
その覚悟は素晴らしいと率直に思います。
ただ、10年でも短いくらいかも、とは言い添えたい気もしますね。10年だと、10回しかPDCAが回らないので。
そこは20年でどうでしょう?
繰り返しですが、新しい発想や投資が農業に入ってくるのはウェルカムです。
望むらくは、これがすぐに消えてしまう「バブル」ではなく、文化として定着しますように。
株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。