株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2017.08.20

農家は買い手を選ぶ時代~小売店のこと

背景 東京農業を応援いただいている皆様

突然ですが、私はクラフトビールが大好きです。
好きが高じて店まで作っちゃいました。
で、大好きであるがゆえに、あるブルワリーについて「あそこのビールはいまいち好きじゃない」などと思ったりもします。愛情が深いがゆえに、憎悪も強いと言いましょうか。。。

しかし、です。

よくよく考えてみると、あるビールがイマイチだったとして、それはブルワリーの責任でしょうか。もしかしたら、それを提供した飲食店の保存状態のせいかもしれませんし、中間流通を担う人の責任かもしれません。
他のタイミングで同じブルワリーのビールを飲んだら、「美味しい!これ大好き!」となる可能性は捨てきれないのです。

これは、農産物についても言えることだと思います。

品質保持もそうですし、消費者に商品の良さをどれだけ伝えてくれるかといったことは、流通や小売の現場によってまったく違います。つまり、作り手の立場に立てば、販路によって商品の扱われ方はまるで違う、という事実があります。

これはマーケティング論で言うところの、チャネル選択という命題に通じます。
チャネル(流通経路)には、大別して閉鎖型チャネルと開放型チャネルがあります。

開放型チャネルの典型例は、青果市場です。基本的に、誰でも買うことができます。売り手は誰が買うかを選ぶことができません。
一方、閉鎖型チャネルの典型例は、自動車のディーラーです。トヨタの新車は、トヨタのディーラーでしか買えません。ホンダのディーラーではプリウスは絶対に売っていないわけです。

作り手にとってどちらを選ぶかは、一長一短があるので状況によって正解は異なります。
開放型の方が短期的な売上は上がりやすいですし、多くの人に触れてもらえる分、思いもしなかったニーズが開拓できることもあります。
閉鎖型では、商品にまつわる情報(品質やメンテナンス方法や開発におけるストーリー)を伝えることができますし、商品の品質保持をある程度担保でき、ブランド形成に有利です。

その点、地元野菜だけを扱っているしゅんかしゅんかは、完全な閉鎖型ではないものの、作り手にとって閉鎖的な性格を持ったチャネルです。
しゅんかしゅんか側はやたらと取引農家を増やそうとはしていません。しゅんかしゅんかにとって、何も考えなければ、取引農家の数を2倍にするのは難しいことではありません。しかし、自らの売り場の限界を見極めつつ、慎重に取引農家の数を増やしています。「やたらと取引農家を増やさない」という明文化された契約はないのですが、自主的に、制限しているのです。

そして、販売の現場では、納入日翌日に即値下げが敢行され、その旨がPOPに明記されます。つまり、「最大鮮度の時がその農家さんの最大のパフォーマンスである」という情報を無意識のうちにも消費者に伝えています。

農産物は、世の中の他の商品と比べて、品質保持が難しい部類です。にもかかわらず、流通や小売の現場に農家さん自身が関わることは、現実的には難しい。
ですから、クラフトビールの例と同じように、実際には美味しいはずなのに、消費者の手に届いた時にはそうではない、ということが頻繁に起こりえます。
販売チャネルをどうするかという命題は、そのブランド形成にとってひじょうに重要な検討事項です。

農産物のブランド化は常々叫ばれていることですが、閉鎖型チャネルを選ぶことの重要性はあまり認識されていないように思います。
北海道浜中町産の牛乳がハーゲンダッツに使われていて、そのブランド形成に役立っているのは有名ですが、ハーゲンダッツのアイスを製造するために卸すという閉鎖的なチャネルを選択したからこそ今があるのです。

いくつかの当社の取引農家さんは、明らかにチャネルを選択しています。
より近くてより売れる売り場があってもそこには出さない。マーケティング論を知っているわけでは、おそらくないと思います。直観的にそうしているのです。

他の商品と同じく、農産物にとっても、チャネルを閉鎖的にすることはブランド形成のために重要な姿勢です。
そのことは農業のビジネス論のなかではあまり語られませんが、いくら強調しても強調しすぎることはないと考えています。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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