株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2020.03.30

割りを食う者、割りを食わない者

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

こんな状況の世の中なので、愚痴にならないように気を付けながら書きたいと思います。

と言いつつ、いきなりネガティブな話ですけども、多摩エリアのとある街の公共施設内のカフェが3月のはじめに休業を要請されたそうです。
翌日から急に休むように言われ、すでに翌日分の仕込みも終わっているし、その食材費や今後の人件費の補償もないという状況なのだそうです。

その公共施設からの要請が「事なかれ主義」に基づくことであることは明らかです。
もし地元市民の健康を本当に危惧しての行動であれば、市内の他の飲食店にも要請をするのが筋です。(これは3月はじめの話なので、小池知事の記者会見前の話です。)
当該のカフェが休んだところで、地域の感染拡大リスクはちっとも下がらない。近隣では民間のカフェがいくつも営業していて、むしろそのカフェがないことで他のカフェの密集度を増しているとさえいえる。
とりあえず、自分の担当部署でなにも起きなければいい、そういうことなのでしょう。

ところで、こうした難しい状況のなか、私の尊敬する大学教授がこんなことを言っていました。
「いまは津波が襲ってきている状態と考えるべきではないか」ということです。つまり、
1)津波が襲ってきているのに、自粛する/しない、経済がどうだと言う人はいない
2)まずは全員で「避難」が大事
3)津波が去ったあと、みんなで経済を立て直せばいい

なるほど、それも一理あるなあと思いました。

ただ、同意できない部分のひとつは、津波は全員が多かれ少なかれ被害を被る、ということです。
金持ちの家も貧乏な人の家も流されるし、老若男女、1次産業か2次か3次か関係なく被害がある。

ところが感染症の場合は、とくに重篤化しにくいタイプの場合、津波と異なってあまり関係ない人というのが出てきます。

しかし、社会全体の目標としては、「感染症の拡大を防止して、死者を最小にする」ということがあります。当然ですが。
津波からの避難も「死者を最小に抑える」ことが目標ですが、これは全員が協力しあって行うことになります。
一方で、感染症からの「避難」は、その経済的負担度に相当な差が出ます。「感染症の拡大を抑える」というベネフィットはあまねく全員に平等に行きわたるというのに。
つまり、ここで言いたいのは、社会全体の目標の達成に対して、「持ち出しをする人」と「持ち出しをしない人」というのが出ているのが現在の状況です。割を食う人と食わない人、と言ってもいいです。
そして、所得などの安定度が高い方が割を食わない側にいる、というのがざっくりとした感染症拡大後の社会構図になっています。

で、飲食店が休業するということは、売上がゼロになる、ということなので、割りを食うことです。
まあ、自粛ムードが続いて売上が減ることに関しては、地震のリスクや食中毒のリスクと同様に、それに備えていなかった経営戦略が悪い、と言われればそれまででグウの音もでません。
しかし、休業を要請する場合、話はまったく異なります。あるいは、特定の業種・業態を行政が自粛対象に指定する。
これは、社会全体の目標のために「割りを食う側にまわってください」となかば強制しているわけです。

津波に例えれば、やや大げさな話ですが、「みんなを助けるために、水門を閉めに山を下りてくれ」と言っているのと構図は同じです。あるいは映画『Fukushima 50』にあるように、「みんなのために危険な原発に残ってくれ」、と。
法律は別にして、それを強制できる倫理的権利があるのは、本人も危険に身をさらしている場合だけです。
(例えが大げさすぎるのは確かですが、この騒ぎで何人かの飲食店経営者がうつになり自殺することでしょう。)

そして、本日のポイントですが……。
社会全体にベネフィットがある物事を達成するために、割りを食う人と食わない人が出てきた場合、その両者を分断させず、繋ぎとめるものはひとつしかありません。
感謝、です。

私たちは体を張ってくれる自衛隊や消防隊に感謝したりします。同じことではないでしょうか。

くだんのカフェに休業を要請した担当者に足りなかったのは感謝ではないかと推測しています。
「市民の健康のためにご協力いただいて、ほんとーーーに、感謝しています。」
それが自治体としての公式メッセージでなくてもいい。担当者が心からいえば、金銭面は別にしても、もう少し気持ちよく休業できたんじゃないのかな、と考えます。まあ、首長から電話の1本くらいあってもいいくらいのことだと思いますが。

渋谷で夜な夜な遊んでいる若者をつかまえて、「こんな時期に出歩いてどういうつもりか?」と非難するのは簡単です。しかし、他方では、高校最後、卒業式の前後に友達と遊ぶことを断念した若者だっていたはずです。
むしろそっちを報道するべきなんじゃないでしょうか。そして大人として感謝を伝えたいものです。

同様に、飲食店の休業や各種公演の休止が、社会全体の目標にかなうものであるならば、「よく取りやめてくれましたね。きっと損失が出ましたよね。ありがとう」と言うべきではないでしょうか。
K-1の主催者の方にも、「こんどは無観客試合にしてくれてありがとう」と(このブログを読んでいるわけもないけど)、私は心から言いたいと思います。

飲食店に関して言えば、経済的損失だけではないんですね。
お店というのは、その料理、その雰囲気、その歴史、子どもみたいなものなんです。それを一定期間閉めるということは、子どもとしばらくお別れするようなものです。そういう気持ちも理解してくれたら嬉しいです。

当社はどうするかというと、営業時間の短縮はしつつ、それ以上の対応はどうしていくかは推移を見ている状況です。多摩エリアと都心では判断が異なることもありうると考えており、多摩エリアはまだその段階ではありません。
2月からの2か月間、本当にたくさんの応援をいただいています。ありがとうございます。

そして、公衆衛生のために休業を決定された飲食店の仲間のみなさんに、心から敬意を表します。その行動は、消防隊が災害現場に突撃していくことと、倫理的構造は同じなのですから。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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