株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2020.04.27

作風はテイクアウトできない

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

コロナ禍(という言葉が当たり前になりましたが)で、企業経営をされている皆さんは本当にたいへんな思いをされていると思います。
当社の場合、いろんな支援策やら協力金やらが発表されていて、申込みなどもしていますが、手元に届いたお金はまだ一銭もありません。多くの企業が同様だと思います。

そんな状況で、暗い気持ちになってしまうのは避けられないところ、力になってくれるのは私の場合はマンガです。久々に『バクマン。』(原作:大畑つぐみ 漫画:小畑健)を読み直しましたが、これがよかった。
勇気をもらいました。

で、あらためて『バクマン。』で印象的だったのは、漫画家を目指す主人公(コンビでやっている)が、いろいろな作風を試し、四苦八苦しながら、最終的に自分たちに合致したものを見つけていくというプロセスです。(ネタバレになるので細かく書かないですが。)

私たち商売人にも、やはり自分の性格や能力に合っている商売とそうでない商売があります。それを見つけていかないといけない。
今回のコロナ禍で、飲食店はなにはともあれテイクアウトとか、そういう形で売り上げを確保する必要が出てきています。当社の野菜を買ってくださっている飲食店さんも、みなさん素早く対応されているみたいですが、やはり自分の”作風”というものがある。
だから、「お、意外とうちってテイクアウト向いているじゃん」という店もあれば、「今は仕方ないが、これは長くはできないな…」という店もあるのではないでしょうか。
『バクマン。』では、主人公のライバルである天才的漫画家の新妻エイジが、本来の作風でない恋愛マンガを描いてみるが全然ダメ、という場面があります。
「そう、これは作風じゃないんだよな」という感覚。それはお店を経営していくうえでは大事にしないといけないと思います。

ただ一方で、商売人はそういうんじゃない、という主張もあるかもしれません。
さきほど私は、「私たち商売人」という言葉を気楽に使いました。
しかし、商売人、あるいは商人という言葉には、利にさとく、そのためなら柔軟に動いていくという意味合いがあります。
つまり、利益のために柔軟に動ける人だけが商売人を名乗れる資格がある。真の商売人は「作風」を選びません。スポ根の時代じゃないな、次はラブコメにしよう、みたいな。
企業の収益性や永続性を考えたら、その方がいいでしょう。とくに現在のように商売環境が急激に変わったケースではものすごく強いですね。

飲食店のメニューなどでは、よく「こだわり」という表現を使いますが、「こだわり」は原義的には拘泥するといったネガディブなニュアンスの言葉です。そして、商売において拘泥は悪です。
ちなみに、日本では「利にさとい」ことはあまり良いことと思われていませんが、儲かること、イコール、社会に求められていることなので、倫理的にはむしろ善いことだと私は思います。

『バクマン。』では、こんな議論をする場面があります。

アシA「人気獲るためにマンガ描いたら終わりですよね。(中略)僕にとってマンガは自己表現であり、芸術ですね」
アシB「それは自己満足で終わって売れないパターンですよ。できるだけ多くの人に楽しんでもらう、つまりニーズに答える商品なんですよ?『ジャンプ』に描くなら順位や売り上げがすべて…」(中略)
主人公「僕たちは売れたいと思って描いています。でも、それは自分たちに才能が足りないから……。本当は自分の描く作品が芸術的で、その作品で人を感動させられたらそれが一番いい。」
(関係ないですが、文字だけ写すとすごく暗い印象になりますね。絵のあるマンガのすごさを感じます。)

大規模チェーンは別にして、飲食店にしろ小売店にしろ、お店というものは、店主なり店長なりの自己表現が入っています。
その自己表現がお客様を満足させていると言ってもいいし、自分の生きがいとしている部分がある。
その意味で、多くの飲食店の店主は根っからの商売人とは異なります。もちろんお客様の要望に応える必要はあるので、完全なる芸術家というわけでもないです。その中間。

いずれにしても、何かあっても、すぐに変えろと言われても難しい。いや、商売なのだから、時々のニーズに合わせていかなくてはいけません。本来、それができないのであれば店を持ってはいけないのかもしれません。
それでも、店舗が持っている色合い、店主の魂、それが多くの飲食店にとっての核心だと私は思います。
その「こだわり」によって味がよくなるとか、店のインテリアがよくなるとか、そういうことを言いたいのではないです。こだわりそのものが商品となっている、ということを言いたいのです。
いいかえれば、チェーン店しかない街は、ぜったいに私はイヤです。
私は店主の魂を消費したいのです。何かに拘泥しているところを、見たいのです。

慣れないテイクアウトなどやめて、みんなが早く本来の作風に戻れる時が来ることを祈っています。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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